2020年の男女ゴルフツアーが新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、開幕戦からストップしている。ここまで中止、延期となった各大会の名場面を振り返ります。

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▽2019年(平31)大会(7月4~7日、神奈川・戸塚CC)

2位から出た渋野日向子がイ・ミニョン(韓国)とのプレーオフを制し、ツアー2勝目。この年から始まった大会の初代女王となった。4バーディー、3ボギーの71で回り、通算12アンダーの276。「黄金世代」では畑岡奈紗、勝みなみに続く3人目の複数優勝を果たした。ツアー賞金ランキングも2位に浮上。東京五輪出場へ加速した。

ウイニングパットを決めると、渋野は右手でガッツポーズをつくった。18番で行われたイ・ミニョンとのプレーオフ。グリーン左からの第3打を、ウエッジでふわりと高く打ち出すと、ピンそば1メートルにぴたりとつけた。今オフ、鹿児島・種子島合宿で何度も練習したショットを大一番で披露。ダブルボギーだったイ・ミニョンとは対照的にパーで締めて2勝目。観戦した母伸子さんに成長した姿をみせた。「(母と)優勝を分かち合えるのは本当にうれしい」と笑顔がはじけた。

後半14番終了時点でイ・ミニョンと4打差。完全な相手ペースだったが、この日最難度の15番パー4で空気を一変させた。15メートルのバーディーパットを沈めると、重圧をかけられたイ・ミニョンが崩れてダブルボギーで1打差に迫った。続く17番では、今度は2・5メートルを決め追いつき、逆転劇のお膳立てが整った。

最終18番グリーン上。渋野は門田キャディーからこの年の1月24日に亡くなった妻和枝さんへの思いを伝えられた。プレーオフ前に、勇気をもらい、燃えた。「奥さんのことはずっと思っていました。より一層、勝たないとと思って挑みました。勝てて良かった」。コンビ3戦目でつかんだ勝利を天国にも届けた。

プロ1年目で5月のサロンパス杯で初優勝した。目標を達成したことで、2勝目を目指し勝ちにこだわるあまり、渋野から笑顔が消えた。調子を落とし、指導する青木翔コーチから「ダメな自分も全部受け入れなさい」と叱られた。渋野は「素直にゴルフを楽しむしかない」と気づかされ、笑顔を取り戻し復調した。

先週のアース・モンダミン・カップで4位に入り、AIG全英女子オープンの出場権を獲得。世界ランキングも81位で日本勢7番手に浮上した。賞金ランクも2位に躍進。ツアー1勝後に、なかなか2勝目が遠い選手が多い中で、わずか2カ月での2勝。しかも、イ・ソルラ、イ・ミニョンと韓国の強豪2人に競り勝った実力はまさに本物。この大会での勝利が、渋野の運命を大きく変えていくことになった。