渋野日向子(22=サントリー)が驚異的な粘りで、3週間前にもプレーオフを戦った因縁のペ・ソンウ(韓国)との再戦を制した。5バーディー、3ボギーの70で回り、通算9アンダー、207。先行するペに最終18番で2打差から奇跡的に追いつき、プレーオフに突入。1ホール目で鮮やかなイーグルを奪い、競り勝った。3週前に続く今季2勝目、日米通算7勝目。攻めの姿勢を貫く“おもしろいゴルフ”に会場は沸いた。

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劇的な逆転劇は「イーグルしかない」と、マン振りした2度のティーショットで引き寄せた。正規とプレーオフで渋野が2度放った18番パー5のドライバーショットは、ともにペの球を超えてフェアウエーへ。第2打もともに、飛距離と精度を兼ね備え、グリーンに乗せた。気迫が観衆を魅了し、ペのミスを誘った。

渋野 今年米ツアーで何試合かやって「面白いゴルファー」になりたいと思った。18番は正規もプレーオフも、フィニッシュを取れないぐらいのマン振り。それでも先週よりも切り返しができていたから、ボールが真っすぐ行った。そこができているのがうれしい。

心身ともに極限状態でのフルスイングでも、狙い通りに打てたことを勝因に挙げた。それを可能にしたのが、来年からの米ツアー参戦を見据えて昨オフに着手したスイング改造。トップの位置を下げ、コンパクトになった振りで飛距離は落ちた。新スイングが定着しない今年前半などは、再現性を求めた改造ながら、球の行方はばらついた。何よりも勝てずに批判された。

3週前のスタンレー・レディースで、686日ぶりに勝ち「あーじゃ、こうじゃ、と言っていた人を見返したかった」と明かした。今大会、新スイングはコンパクトながら軸はブレず、マン振りにも対応。飛距離は伸び、進化を証明した。

事実、今大会3日間のフェアウエーキープ率は、95・24%で堂々の1位だ。パーオン率も79・63%でペに次ぐ2位。ドライバー平均飛距離も4位の245・17ヤードだった。3部門とも上位は渋野だけ。飛ばしつつ精度は高く-。世界最高峰の米ツアーを目指していたからこそ、達した境地だ。

渋野 なるべくボールと友達でいたいと思って、目線を低く、トップからの切り返しは速くならないように意識している。18番のティーショットも、マン振りでもちゃんと、前よりも切り返しができていた。「1球入魂」。今までよりも楽しんでプレーできている。

「面白いゴルフ」を目指したのは6月のメジャー、全米女子プロ選手権が転機だった。第2日の上がり2ホールでバーディー、イーグルを奪って3つ伸ばし、ギリギリ予選通過。ファンに「面白いゴルフをしてくれて、ありがとう」と言われ「見に来た方に楽しんでもらいたいと思うようになった」という。新スイングは日に日になじんでいる。映画を上回る劇的な“しぶこ劇場”は、まだ始まったばかりだ。【高田文太】

◆渋野日向子(しぶの・ひなこ)1998年(平10)11月15日、岡山市で3人姉妹の2番目として生まれ、8歳でゴルフを始める。岡山・作陽高では全国高校選手権団体の部で優勝。18年にプロテスト合格。19年5月のワールド・サロンパス・カップでツアー初優勝。同年8月にAIG全英女子オープン制覇。日米ツアー通算7勝。167センチ、62キロ。

◆フェアウエーキープ率とパーオン率 フェアウエーキープ率は、ティーショットでフェアウエーをキープした確率。パー3ホールは除かれる。パーオン率は、そのホールにおいてパーの打数から2を引いた打数以内でグリーンに乗せた確率のこと。グリーンに乗っているかどうかの判定は、グリーン面にボールが触れているかどうかで決まる。