新世紀世代の山下美夢有(20=加賀電子)が4打差逆転で今季2勝目、通算3勝目を挙げた。最終組の1組前で5メートル前後の風、大会アドバイザー宮里藍さん設定のピン位置を克服し、全72選手中ただ1人ノーボギーの68。通算12アンダー、276で最終組の藤田さいき、稲見萌寧らを逆転した。プロボクサー井上尚弥の世界バンタム級3団体統一戦に感激した150センチの“小さなファイター”が国内ツアーに君臨する。

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山下がシビれる1打を完璧に決めた。最終18番グリーンエッジから30ヤードのアプローチ。「風がアゲンストだったのでイメージしやすかった」と言うが、ピン向こうに池、ダウンスロープも入る。高難度のロケーション、重圧をはね除け、30センチへ。会心のパーセーブで、最終組でボギー終わりとした藤田に競り勝った。

最終日に1人だけ、ノーボギーだった。風が吹き、宮里さんが工夫を凝らしたピン位置に耐えた。それだけの技術とハートが、ツアーで最も背が低い150センチの体に詰まっている。

開幕前々日の7日、「モンスター」の異名をとる井上尚弥に興奮した。「ヤバかったです。かっこ良すぎます」。宿敵ドネアをTKOで破った3団体世界王座統一戦。大阪の実家のテレビで流れる有料放送をスマホのテレビ電話で“中継”してもらい、ホテルで生観戦した。ユニットC&Kの曲で「モンスター」が出演する「道」のPVは何度も見た。キックボクサー那須川天心、K-1江川優生にもハマる“格闘女子”だ。

一方、熱さを抑えた技術もある。予選通過を決めた10日のラウンド後、コーチの父勝臣さんに「スイングの軸がぶれてる」と指摘された。疲れや、気持ちが前に出すぎると顔を出す悪癖が、決勝2日間は影を潜めた。優勝した5月のサロンパス杯でもコンビを組んだ松村卓キャディー(48)は「突っ込んで、ロフトが立って飛びすぎていたショットが消えた。アイアンの距離が一定した」と修正力の高さにうなった。

実力者優位とされる4日間大会に強い。同じ新世紀世代の西郷真央の4戦3勝にこそ及ばないが、2勝を含めて5位以内が4度。山下は「昨年は逆にダメやったんですよ、4日間。いつも3、4日目にたたいてしまって」と笑顔で首をひねるが、強さの証明だ。

年間最優秀選手賞を決めるメルセデス・ランク、賞金ランクとも西郷に次ぐ2位。3位は稲見。小さなファイターが女子ツアーの最強争いに割って入る。【加藤裕一】

○…海外のメジャー未経験の山下は優勝で全英切符を手にしたが、出場については明言を避けた。「もちろん興味はありますし、調子が良ければ出たいです。でも、出る以上は予選通過して上位で戦える自信がないと…」。前週の全米女子オープンも同様の理由から権利を持ちながら、出場を見送っている。全英については父勝臣さんらと相談し、17日開幕のニチレイ・レディースまでに結論を出す。