蝉川泰果(21=東北福祉大4年)が通算10アンダー、270でツアー史上初の「アマチュア2勝」を達成した。最大8打差リードから9番でトリプルボギーを喫し、最終18番で7メートルのパーパットをねじ込み、最後はドキドキの2打差V。蝉川は「日本ゴルフ界を盛り上げたい」と、30歳まで国内を主戦場にすることを明言。近日中にプロ転向する“エンターテイナー・ゴルファー”が95年ぶりに、日本オープン・アマチュア優勝の金字塔を打ち立てた。

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静寂を、大歓声が打ち破った。最終18番グリーン。蝉川が右カラーから7メートルのパーパットを決めた。カップの2メートルほど前で「確信した」と右手を大きく構え、ジャストインの瞬間に振り下ろす。まるで往年のタイガー・ウッズのようだ。

「ああいうパーパットが入るなんて“自分は何か持ってるな”と思った」。

出だし2連続バーディーで、同組の比嘉に8打差をつけた。独走Vの気配だった。ところが、5番で50センチをマークせず、お先で外す3パット・ボギー。怪しくなった雲行きは、9番パー4で決定的になる。

グリーン奥斜面からのアプローチを2度も“だるま落とし”でミスし、5オン2パットのトリプルボギーを喫した。リードは8打差から4打差へ。その後も徐々にリードは狭まり、何とか2打差で逃げ切った。

「9番は正直ショックでした。それでも“勝ちたい”というより“いいプレーをしたい”と思っていました」。コースから実家まで車で約30分。ご当地大会に父佳明さんら家族を含め、約4000人のギャラリーがいた。ミスにも変わらず送ってくれる声援に、応えようと思った。

今年のシーズン前まで進路に悩んでいた。結果を出せない力不足に大卒後の一般就職も考え、円形脱毛症にもなったが、プロを目指すと決めた。国内メジャーを制し、プロ転向後の「当該シーズン残り試合+5年シード」の権利を得た今、夢の「4大メジャー優勝」に向けた海外挑戦の道は広がった。しかし、思いは日本にある。

「野球もサッカーも盛り上がってるでしょ? ゴルフも盛り上げたいです。30歳までは国内を主戦場にして、賞金王を何度もとって。メジャーや米ツアーはスポット参戦で勝って」。

松山英樹、石川遼もなし得なかった「アマチュア2勝」を成した。ナショナルオープン95年ぶりアマチュア制覇も手にした。

ナショナルチームのガレス・ジョーンズヘッドコーチが「エンターテイナー」と評する蝉川は「自分、やるなって思います」と笑って見せた。【加藤裕一】

◆日本オープンのアマチュア 前回の86回大会までトップ10は第1回(27年)優勝の赤星六郎を含めて17例(13人)。第2回(28年)以降は優勝はなく、最も優勝に接近したのは第82回(17年)の金谷拓実で池田勇太に1打差2位だった。