19年ラグビー・ワールドカップ(W杯)を待ちわびるのは選手だけではない。競技場を歩けば日の丸のポンチョに人が集まる「名物ファン」古村大輔さん(61)は来秋の東大阪市(花園)ボランティアに応募した。15年W杯イングランド大会は、日本代表の南アフリカ戦歴史的勝利を現地で観戦。次は新たな角度から、大会の盛り上げに一役買う。

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15年9月19日、英ブライトン。日の丸のポンチョを着た古村さんは試合前の君が代斉唱から泣き、80分間叫び続けた。緑の塊で攻めてくる南アフリカの膝元に、日本の15人が突き刺さる。「タックルは、感動を呼ぶ。命がけでやるというのが、国歌を歌った時から伝わってきた」。自分の姿が何度も国際映像で映し出されていることは、知らなかった。決勝トライは前の観客で見えなかったが、スタジアムの振動で「勝ったんや~!」と涙が強まった。

数時間前、スタジアムへ向かうバスの車中で、ツアーの仲間に思いを伝えた。「次のW杯はラグビーが大好きな人が、裏方に回らないといけないんちゃうか」。英ヒースロー空港での入国時、訪れた理由を尋ねてきた女性に「ラグビーの応援」と伝えると「ビート ボクス(南アフリカを倒すことを願っている)」と返ってきた。伝統国から興味を持たれていることがうれしく、同時に「日本だったら考えられん」と思った。

兵庫の甲南中、高、大でラグビーに打ち込み、SOやSHでプレー。大学4年時に地元の強豪クラブチーム「六甲クラブ」へ入り、もう40年になった。週末は三重・四日市市の自宅から神戸へ通い、年に数回の試合出場に向けてランニングも欠かさない。年を重ねるにつれ、写真撮影役も増えたが「集合写真も僕は撮る係で、入らなくていい。みんなの笑顔を見ていると幸せになるし、ここは一緒ですから」と左胸をたたく。

だからこそ、試合以外の素晴らしさを発信したい。その志は変わらず、現在は花園ラグビー場がある東大阪市のボランティア選考を受けている。「イングランドの時にしてもらったおもてなしを、今度は僕たちがしたい。僕が持っていたかもしれない1枚のチケットでまた、ラグビー好きが増えてくれたらうれしい」。来年1月からは、いよいよ本格的なトレーニングが始まる予定。3年前の歴史的勝利の翌日、英国の街で「写真撮ってくれ」「握手してくれ」と国際映像を見た南アフリカ人が寄ってきた。仮にスタジアムの中にいなくても、ラグビーを中心に人の輪は広がっていく。

古村さんは、ある言葉を大切にしている。

「ラグビー・オープンズ・メニー・ドアーズ」

16年6月、ラグビージャーナリストの村上晃一氏(53)が口にしていたフレーズにピンと来た。もともとは、世界殿堂入りを果たしている関西協会の坂田好弘会長(76)が、オーストラリア人の友人から伝えられたもので「ラグビーはたくさんの扉を開く」という意味。競技経験の有無、性別、国籍も関係ない。素晴らしさを伝えることは携わる全員ができる。【松本航】

花園ラグビー場のこけら落としとなった世界選抜戦のポスターを手にする古村大輔さん(撮影・松本航)
花園ラグビー場のこけら落としとなった世界選抜戦のポスターを手にする古村大輔さん(撮影・松本航)