2002年サッカー・ワールドカップ(W杯)で日本代表の主将を務めた森岡隆三氏(43)が、W杯に臨むラグビー日本代表にエールを送った。強靱(きょうじん)な肉体のぶつかり合いをリスペクトし、サッカー界も学ぶ点が多いと指摘。自らの地元W杯の経験を振り返り、ラグビー史上最高のチームになることを願った。

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02年W杯は、いい思い出だけではないんです。初戦のベルギー戦で負傷し、その後は欠場。精神的に不安定になり、選手としてひどい言動もとった。チームに悪影響を及ぼすから、離脱しようとも思ったんです。

ベテラン勢に、目を覚まされました。試合に出ていない秋田(豊)さんやゴン(中山雅史)さんが声を出し、雑務もこなす。献身的にチームのために動く。悔しいはずなのに。自分もチームのために、できることをやろうと思えた。チームスポーツの良さですよ。

チームが1つになることは、絶対に必要です。ラグビーでも同じ。自分がどういう状況にあろうと、チームのために何ができるか考える。あとは精神面。自国開催の非日常の中で、いかに平常心でいられるか。ラグビーは前回のW杯でもメンタルコントロールが素晴らしかった。精神的な部分のアプローチは、サッカーより進んでいますよ。

ラグビーから学ぶ面は多い。父が好きで、子どもの頃からよく見ていました。当時は、サッカーの日本リーグよりも大学ラグビーの方が華々しかった。ただ、サッカーをしていたから、体がぶつかり合う時の痛みは分かります。「よくできるな」と思っていました。

ラグビー選手の自分を律する「マインドセット」はすごい。スタンドまで響く鈍い音で体をぶつけても、痛がらずに立ち上がり次のプレーに備える。痛くもないのに倒れ、レフェリーが来れば立ち上がるような選手がサッカーにはいます。かっこ悪いですよ。

若手や子どもたちに言うのは「100%」「その瞬間を」「最後まで」プレーしよう、の3つ。それを体現しているのが、ラグビーだと思いますね。相手やレフェリーへの敬意も素晴らしい。サッカー界もラグビーから学ぶべきです。

今でも02年大会で思うことがあります。トルシエ監督は明確には言わなかったけれど、チームの目標は1次リーグ突破でした。国民の期待もそこにあった。98年大会から4年間、その目標のために進化し、大会中にも進化した。だから、1次リーグを突破できた。

ただ、それで満足して集中力が切れた。決勝トーナメントに進んだのに、より上を目指す志がなかった。少しでも高みをという思いがなかった。今思えば、本当に残念なこと。千載一遇のチャンスだったのに。

数字の目標とは別に、代表は常に「史上最高のプレー」をしないといけない。キャプテンとして「ここからだぞ」と言えたのではという後悔はあります。ラグビー日本代表にも、頭の片隅にでも、こんな事実があったことを入れておいてもらいたい。ラグビーの日本代表には、史上最高のラグビーをしてほしいんです。

◆森岡隆三(もりおか・りゅうぞう)1975年(昭50)10月7日、横浜市生まれ。神奈川・桐蔭学園中-桐蔭学園高。94年に鹿島アントラーズ入りし、95年途中に清水エスパルス移籍。長く守備の中心として活躍したが、07年に京都サンガFCに移籍し、08年限りで引退した。引退後は京都コーチ、同U-18監督、ガイナーレ鳥取監督などを歴任。今季から清水アカデミーアドバイザーを務め、解説でも活躍。Jリーグ通算307試合10得点、国際Aマッチ38試合。

02年、W杯日韓大会のベルギー戦を前に集合写真撮影を行う森岡隆三(後列右から2人目)
02年、W杯日韓大会のベルギー戦を前に集合写真撮影を行う森岡隆三(後列右から2人目)