今週はラグビー特有の文化を紹介する。第1回は試合前の儀式「ウォークライ」。日本代表がパシフィック・ネーションズカップで戦ったフィジーには「シビ」、トンガには「シピタウ」、9月開幕のワールドカップ(W杯)で戦うサモアには「シバタウ」が存在する。今回は有名なニュージーランド(NZ)代表の「ハカ」に注目した。

18年11月、試合前のハカをの日本代表が見つめる
18年11月、試合前のハカをの日本代表が見つめる

腹の底から歌う国歌の余韻が、場内を包む。続いて「カ・マテ(私は死ぬ)、カ・マテ、カ・オラ(私は生きる)、カ・オラ」の叫びが聞こえれば、ボルテージは一気に最高潮だ。両手で激しく全身をたたき、足踏み、表情まで魂を込めるNZ代表「オールブラックス」の「ハカ」。始まりは1888年、翌89年まで続く長期遠征で先住民マオリの代表「NZネーティブズ」が試合前に「カ・マテ」を披露した。1905年からはNZ代表が踊り、チームの象徴として浸透した。

伝統は力を生む。07、11年W杯のNZ代表に名を連ねたSHアンドリュー・エリス(35=神戸製鋼)は「キャプテンズラン(試合前日の調整)が終わると、全員でハカを練習する。別にも練習時間があって、マオリの選手や、ハカの知識が深い選手は若手にしっかりと教える」と説明した。その重みは「力強く、特別なものだ」。「ハカ」はマオリの踊りの総称で、05年にはNZ代表が新たな「カパ・オ・パンゴ」を導入した。試合で用いる種類はリーダー陣で話し合い、仲間へ伝えられるという。

見る者にとってはウォークライに対する、相手国の反応も興味深い。NZとフランスが戦った07年W杯準々決勝では、両軍選手の額同士が当たりそうになるほど急接近。11年W杯決勝の再戦ではV字形のフランスがハーフウエーラインを越えるほどNZに迫り、罰金を科せられた。昨秋のテストマッチで、NZと戦った日本代表の事前対策は「(ハカの)後方の選手を見る」。過去にはオーストラリアが“完全無視”するなど、それぞれに色が出る。国歌斉唱は他競技にも通じる試合前行事だが、限られた国によるウォークライの時間が確保されるのはラグビー文化。「まだ試合まで時間が…」と見逃したらもったいない。【松本航】