韓国出身のプロップ具智元(グ・ジウォン、25=ホンダ)は、大分・日本文理大付高時代に染矢勝義元監督(51)から指導を受けた。恩師は、真面目な「未完の大器」が急成長した背景に高いプロ意識があったことを明かした。(敬称略)

具智元の高校時代を語る染矢勝義氏(撮影・峯岸佑樹)
具智元の高校時代を語る染矢勝義氏(撮影・峯岸佑樹)

「天才が努力すると怖い」。染矢は具の高校3年間をこう表現した。9年前、具は2歳上の兄智充(ジユン、ホンダ)を追って同高へ入学。黒縁めがねをかけた体重100キロ超の巨漢だったが、恵まれた体格をうまく使えず、苦悩の日々が続いた。元韓国代表で「アジア最強プロップ」と呼ばれた父東春(ドンチュン)の影響もあり、将来は競技環境が充実した日本代表への夢を抱き、自ら猛練習を課した。染矢は「遊んでいる姿を見たことがない。時間さえあれば練習か食べていた。あそこまでプロ意識が高い学生はいない」と当時を思い返した。

全体練習後の居残り練習が日課だった。寮の裏にある急斜面の山をダッシュしたり、低姿勢でのタイヤの押し引きを反復した。夕食後には深夜までウエートに励み、プロテインを飲んでから就寝。毎日、筋肉痛になりながら強靱(きょうじん)な肉体を作り上げた。練習の量や質、取り組む姿勢など部員たちの「模範生」で、試合に出場できないと涙するほどだった。

高校の体育祭で綱引きする具智元
高校の体育祭で綱引きする具智元

忘れられない出来事がある。ある試合の翌日。休日のグラウンドに具の姿があった。たった1人で大声を出しながらボールを持ってサイドに走り、低いタックルを繰り返していた。次戦を想定したイメージトレーニングで「まるで一人芝居のようだった」という。スクラムの姿勢を携帯電話で撮影し、韓国の父に送って助言も受けていた。「この子はレベルが違う…。あとは強い気持ちと積極性を持てば日本代表も狙える」。

課題は優しさだった。愛らしい笑顔そのままに素直で控えめな性格が、試合で裏目に出ることもあった。好機で自ら突破せず、パスを出してしまうことがあった。見かねた染矢は積極的にボールへ絡むようにNO8で出場させ「パス禁止令」を出したら、20分間で4トライを奪ってきた。「怪物だ」。才能をさらに伸ばすために、トップリーグの試合に連れて行き「体の大きさは代表と変わらない。あとは中身の問題や」「お父さんを超えるような日本代表を目指せ」などとハッパをかけ、闘争心を植え付けた。全国大会と無縁ながら、高校日本代表に選出されるまで成長した。

地道な努力は実を結び、今では日本代表の“秘密兵器”と評される。7月の宮崎合宿では右手甲を骨折したが、27日後の夢舞台に向けて網走で着々と準備を進める。「本番はワールドカップ(W杯)。あとは自分を信じて前だけを見ろ。お父さんを超えるチャンスや」。恩師はこう願っている。【峯岸佑樹】