南アフリカ戦後半、フランカーのリーチ(左手前)らスクラムを組む日本のFW陣(2019年9月6日撮影)
南アフリカ戦後半、フランカーのリーチ(左手前)らスクラムを組む日本のFW陣(2019年9月6日撮影)

ポジティブな敗戦-。4年前のワールドカップ(W杯)で南アフリカ撃破に貢献した元日本代表コーチの沢木敬介氏(44)は完敗の南アフリカ戦を振り返って言った。

注目したのはスクラムとタックル。戦前に「合格点」と話していた数字に近く、7-41の完敗にも「点差ほど落ち込むことはない」と断言した。開幕まで2週間を切ったW杯に向けて、データに希望を見いだした。

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点差だけ見るとショックな負け方かもしれないが、まったく心配はない。逆にポジティブにとらえていい敗戦だと思う。優勝を狙うような強豪相手に通用した部分、逆に課題となるところ。それが明確に分かった試合だった。だからこそ、ポジティブになれる。

スクラム成功率
スクラム成功率

まずスクラム。確かに押されたところもあったが、マイボールはしっかりとキープできていた。南アのスクラムは今、世界のトップレベル。そこと互角に組めたのは大きい。ここで耐えられたことは、他のチームとやる時に自信になる。

南アフリカ選手の突破を止めるフッカー坂手(右)(2019年9月6日撮影)
南アフリカ選手の突破を止めるフッカー坂手(右)(2019年9月6日撮影)

そして、タックル。成功率81・5%は、試合の前に「合格点」としていた85%には届いていない。後半に疲れが出たのか75・9%と落ち込んだためだが、前半だけなら86・1%と十分な数字だった。フィジカルの強い相手と、互角に戦えていたのは大きな収穫だ。

タックル成功率
タックル成功率

モールトライを許さず、近場をパワーで「ゴリゴリ」攻めてくるのにも対応できた。FWのバトルは健闘していた。ただ、それを80分間続けるのは課題。タックル成功率のように後半になると数字が落ちる。高いレベルで80分間続けないと、強いチームには勝てない。

日本はポゼッション(ボール保持率)で57・9%と南アを上回った。キャリーによる獲得距離も654メートルで458メートルをしのぐ。パス本数も191対68と圧倒的だった。それでも、トライは1本対6本。ただボールを持ち、パスを回しても、トライは奪えない。問題はどこでボールを持ち、どこで相手に持たせるかということ。そのマネジメントの差が得点差になった。

相手のハイパントをキャッチする松島(2019年9月6日撮影)
相手のハイパントをキャッチする松島(2019年9月6日撮影)

気になるのはキック。日本はWTB松島や後方に下がったSO田村の裏に精度の高いキックを蹴られ、そのボールを再獲得された。南アが再獲得を狙って蹴ったハイキック12本のうち半数近い5本を取られた。対照的に日本は6本蹴って再獲得は1本だけ。この差がそのまま結果に出た。

ハイキックの再獲得率
ハイキックの再獲得率

より相手のキッカーにプレッシャーをかけて、キックの精度を落とさせるところが重要だ。逆に日本はキッカーが余裕を持って精度の高いボールを蹴ることができるように、相手のプレッシャーから守らなければならない。ここは、W杯に向けての修正点になる。

日本がW杯で戦うA組で最強とみられるアイルランドの守備は、この日の南アにも似ている。具体的に言えば、守備の時に上がり目のポジションをとるFBの背後が狙えるということ。この日、それが見えたこともW杯への収穫になる。

4年前の南ア戦、日本は周到な準備を重ね、それまで隠していたサインプレーでトライも奪った。この日の日本には、まだまだ見せていないサインプレーがあるはず。それを隠したままW杯本番を迎えられる。本番まで2週間、ポジティブな大敗の中にこそ、日本が目指すベスト8へのヒントは詰まっている。

南アフリカ戦後、観客にあいさつする日本代表選手たち(2019年9月7日撮影)
南アフリカ戦後、観客にあいさつする日本代表選手たち(2019年9月7日撮影)