<全国高校野球選手権:東海大相模10-5水城>◇11日◇2回戦

 原さん、勝ちました。今秋ドラフト上位候補、東海大相模(神奈川)一二三(ひふみ)慎太投手(3年)が、甲子園初本塁打を放ち、巨人原監督が3年生で出場した76年以来、34年ぶりの夏勝利を挙げた。センバツ初戦敗退後の5月に、上手投げからサイドスローに転向。雪辱を期したマウンドで、8回2/3を投げて6安打3奪三振3失点。8四死球と制球に苦しんだが、最速145キロで、投打にチームを引っ張った。

 一塁を回った一二三は、悠々と右手を突き上げた。5点リードの9回無死一塁、内角高めに入った126キロの直球をとらえた。打球は左翼スタンドに飛び込み、3万9000人のスタンドが沸いた。「気持ち良かった。打った瞬間、いったなと思いました」。高校通算13号となる2ラン。感触を確かめるように、ゆっくりとダイヤモンドを1周する。ベンチ前では、門馬敬治監督(40)がポンと背中をたたいて出迎えた。

 バットでは5打数4安打で3打点をたたき出した。その一方で、本職の投球では苦しんだ。横手投げでの甲子園デビューだったが「バッティングは100点。でもピッチングは50点です」と、素直に喜べない。1回から3回まで、毎回四球で先頭打者を出した。1回2死三塁では、水城の1年生4番・萩谷にこの日最速の145キロの直球で勝負したが、中前にはじき返されて先制を許した。優勝候補に挙げられながら、初戦で自由ケ丘(福岡)に敗退したセンバツが頭をよぎる。「緊張と焦りでストライクが入らなかった」と振り返る。9回2死まで138球を投げて6安打3奪三振8四死球3失点(自責3)。完投勝利目前で、2年生左腕中島にマウンドを譲った。

 それでも、34年ぶりに東海大相模の歴史に名を刻んだ。夏の甲子園出場は33年ぶりで、勝利は巨人原監督を擁した76年以来だ。県大会前には、34年前の原監督も通っていたという同校近くの「すし処六ちゃん」の海鮮で英気を養った。店内には、原監督が2年時にセンバツで準優勝した時をはじめ、野球部歴代OBの輝かしい写真が飾られている。先輩たちの熱い魂を心に宿し、春以来の甲子園の地に戻ってきた。

 184センチの長身から投げ下ろす本格派だったが、「安定していい球が投げられる」と5月の沖縄遠征を機に変更した。神奈川県大会5回戦(7月24日)では自己最速を1キロ更新する150キロもマーク。生まれ変わって聖地に戻ってきた。「今日は守ってくれた野手に感謝。次は四死球を減らして、ピッチングで貢献したい」。お立ち台に乗ったエースの背中が、より大きく見えた。【鎌田良美】