WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の開幕を目前に控え、日本国内では侍ジャパン一色のようですが、メジャーでは着々とシーズン本番への準備が進んでいます。日本人メジャーでは、青木宣親外野手(アストロズ)がWBCに出場しますが、他の日本人選手も順調な仕上がりを見せています。とりわけ2015年3月のトミー・ジョン手術からの完全復活を目指すダルビッシュ有投手の充実ぶりは、目を見張るものがあります。

 昨年5月、メジャーで復帰登板を果たしたとはいえ、ダルビッシュにとっての昨季が、中長期的な視点からも、リハビリの「延長」の領域であったことは否定できません。復帰直後の交流戦で打席に立った際、メスを入れた右肘への負担を考慮して左打席に立ったように、常に患部を気遣う日々でした。ところが、今キャンプでは手術した事実を、思わず忘れてしまうかのように、フルメニューをこなしています。

 ちょうど1年前のこの時期、ダルビッシュは全体練習が始まる前にウオーミングアップを済ませ、1人でブルペンへ向かい、少しずつ投球練習を本格化させていた段階でした。マスコミや周囲が復帰時期を話題にしていた一方で、ダルビッシュ自身は「Xデー」に固執することなく、慎重に復帰登板を目指していました。「去年の方が気楽にやっていましたね」。マイナーでのリハビリ登板を終え、メジャー復帰戦を前にしても、常に「リハビリ継続」の感覚を持ち続けていました。

 その分、今季への意気込みは格別です。他の先発陣と同じメニューを消化し、オープン戦でも序盤から投げ始めました。渡米後、めったに投げていなかったスプリットも解禁。投球の幅と「のりしろ」を広げつつ、バージョンアップに取り組んでいます。

 右肘の傷が完全に癒えた2017年。「今年は気が引き締まっているような気がします」。2012年のデビューイヤーに16勝を挙げた快速右腕にとって、今季は6年契約の最終年。並外れたポテンシャルを持つダルビッシュが、万全を期して臨むとすれば、傑出した成績、さらには日本人初のサイ・ヤング賞を獲得しても、だれも驚かないような気がします。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)