<マリナーズ11-3エンゼルス>◇15日(日本時間16日)◇セーフコフィールド

 【シアトル(米ワシントン州)=四竈衛、木崎英夫通信員】マリナーズ・イチロー外野手(35)が、劇的な満塁本塁打で張本勲氏(68=野球解説者)が持つ日本最多安打記録の3085本に並んだ。胃潰瘍(かいよう)で開幕から故障者リスト(DL)入りしていたが、9試合目のエンゼルス戦で復帰。3回、今季初安打の中前打を放つと、7回に右翼席へ1号グランドスラムを運んで記録に並んだ。5打数2安打4打点1盗塁で日米通算1000打点もクリア。平成のヒットマシンが昭和の安打製造機に肩を並べ、メジャー記録の9年連続200安打へ好スタートした。

 イチローの通算3085本目は、安打の中でも最高に豪華で、最高に難しい形で決めた。7回1死満塁。カウント2-3から、バルジャーの内角カーブをとらえ、打球は美しいアーチを描いて右翼席へ消えた。この日はメジャー初の黒人選手、ジャッキー・ロビンソンのデビュー記念日。ロビンソンの背番号42を背負ったイチローは「悪くないなと思いながら」とゆっくりダイヤモンドを回った。

 「ホームランは狙って打つ」と意識的に打球に角度をつけられる男だが、「そんな余裕はないです。必死です。(狙うなんて)とんでもない。そんなこと消えてました。必死でした。張本さんの前で並べたのは、とっても気持ちよかった」とニヤリ。いつもはクールな男が何度も「必死」というフレーズを口にした。

 日本の大記録を知らない米国ファンも総立ちにさせる満塁弾。地元での復帰戦で、存在感をアピールするには十分だった。記録だけを意識できる状況ではなかった。ワールド・ベースボール・クラシック後、出血を伴う胃潰瘍(かいよう)でDL入り。6日の開幕日はキャンプ地のアリゾナ州ピオリアで迎えた。

 激闘の重圧と疲れを指摘する声がある一方で、イチローはDL入りした直後に気持ちを切り替えた。無理に合わせることよりも、万全を期すことに専念。遠征地で合流させようとする首脳陣と折衝してまでアリゾナに残って準備を整えた。

 開幕から好調のチームの勢いにも乗った。「いい流れできてますから加わりたい。それに便乗してね。チームと一緒に開幕していれば、もう少し重い感じだったと思う。独特の空気が加わりますからね」。1回、今季初打席で初球からスイングしたのも、打席での意識、反応を確認するためだった。受け身ではなく攻め続ける打撃スタイル。遊直に倒れても、初球を振れた時点でイチローの感覚は戻っていた。

 数々の記録を打ち立ててきたが、「3085」は常に頭から離れることのない数字だった。シスラーの年間最多安打「257」などのメジャー記録は、渡米後にインプットされた。この日、達成した日米通算1000打点にいたっては「まったく知らないし、頭になかった」と言うほど。ただオリックス時代の95年、球場を訪れた張本氏から「オレの記録を抜くのは君だ!」と声を掛けられて以降、どの数字よりも意識する目標だった。

 試合後、記念の本塁打ボールを届けてくれたファンに、サイン入り愛用バットとボールを渡した。それでも、記者会見では強気に笑った。「抜きたかった。張本さんから試合前に『2本はいけ』と言われていたので3本にしたかった。残念です」。タイの次は、もちろん新記録。最高峰に並んだイチローが、いよいよ前人未到の領域に足を踏み入れる。