米アスレチックスとの交渉が暗礁に乗り上げた楽天岩隈久志投手(29)が23日、Kスタ宮城で行われたファン感謝祭に参加した。一方的に打ち切られたア軍との交渉状況に進展はなく、来季の楽天残留が濃厚となっている。それでも、ポスティングシステム(入札制度)を利用してのメジャー移籍を選択した決意に揺らぎはない。いちるの望みを胸に秘め交渉を見守る。

 海を渡る夢が遠のいている。それでも岩隈は凜(りん)としていた。ファン感謝祭に変わらぬ笑顔で参加し、大切にしているファンと触れ合った。楽天残留の可能性を仲間に漏らすのも、現実を理解した上での心配り。だが入札制度を利用して、今オフのメジャー移籍を望んだその立脚点を「理解しています」と言い、続けた。

 岩隈

 下を向いてはいませんよ。代理人の方から「交渉の過程で、こういう(決裂)報道が出ることはある」と説明は受けました。期限の最後まで、信じて待ちます。

 ベストの状態で最高峰の舞台に挑みたい。その一点が、そもそものスタートだった。6月11日に国内FA権を取得した時、「そうなんですか。知りませんでした」と話している。先発として、選手会長として楽天の勝利に徹した1年だった。年間200イニング登板をクリア。自力で節目をつくった。チームをおもんばかりながら球団に許可を願い出た経緯を含め、胸の内はぶれてはいない。「自分としてはお金じゃない」の言葉も、偽らざる本音だった。

 大きな問題は岩隈自身が得るサラリーではなく、その評価だ。フォークボールを制球する、日本球界ただ1人の技術を持つ。加えてフォア・ザ・チームに徹する気高さがある。ア軍が提示した総額1525万ドル(約12億2000万円)という条件は、「岩隈久志」の金看板に合わない。純な気持ちを持ったまま、ほんのわずか残されている可能性を見守る。【宮下敬至】