【フィラデルフィア(米ペンシルベニア州)10月30日(日本時間同31日)=大塚仁】ヤンキース松井秀喜外野手(35)がワールドシリーズの主役に躍り出た。負けられない第2戦で決勝アーチを放って評価が急上昇した。米メディアからは外野手での起用を待望する声が一気に強まるなど、松井の打撃と起用法にがぜん注目が集まってきた。練習では右翼での守備練習もみっちり行い、DHのない敵地3試合に備えた。31日の第3戦はヤンキースがアンディ・ペティット投手(37)、フィリーズがコール・ハメルズ投手(25)の先発で行われる。

 ジラルディ監督が悩める胸中を明かした。DHのない第3戦以降の松井の起用法をいまだに決めかねていた。両ひざの不安が残るため「守備ができるかどうかは慎重に見守りたい」と外野手としての起用にはためらいを隠さない。それでも「もしできないのであれば、最も効果的な場所で代打に使う。彼の打撃を無駄にしたくない」と存在の重要性を訴えた。今季は禁じ手とも言えた「外野手松井」の誘惑にかられてしまうほど、松井の打撃は欠かせないものとなっていた。

 地元メディアの見る目も変わっている。30日付のニューヨーク・ポスト紙は「松井はラインアップに残すべきだ」との見出しで「ひと振りで流れを変えられる打者はそういないだろう?」と代打要員とすることへの疑問を強く訴えた。練習前の取材にも米メディアが松井に殺到。「代打になることへのストレスは」「守備への準備はどれぐらいできているのか」などとしきりに詰め寄った。

 練習ではシチズンズバンク・パークの右翼で40分にわたってボールを追いかけた。ただしノックやクッションボールの処理はあくまでゆるいボールに限られ、実際に外野手として起用される可能性は依然として低い。松井も「もしそういう機会があれば、自分の今できる限りの守備をしたい。不安がないと言ったらうそだと思いますけど」と今季1度もついていない守備には慎重な口ぶりだった。

 シーズン中には考えられなかった「外野手松井待望論」は松井のひと振りから生まれた。負ければ2連敗で絶体絶命だったチームを救ったアーチの価値はとてつもなく大きい。キーマン松井の存在感は、ワールドシリーズにおいてどんどん大きくなっている。