感激のサプライズだ! 開幕1軍が決まった阪神ドラフト2位石崎剛投手(24=新日鉄住金鹿島)に26日、日刊スポーツを通じて茨城・三和時代のチームメートから寄せ書きが届いた。高2夏~高3春まで部員はわずか9人。指導者2人を含めて11人で懸命に白球を追った。目前に迫った1軍デビューへ、かけがえのない仲間の思いを背負ってプロの猛者に立ち向かう。

 「漫画の世界」から石崎はやってきた。前日練習を終えると「順調に来すぎている部分があるので、これをシーズン通してやっていくにはどうしたらいいか考えたい」と冷静に語った。たどりついた憧れの舞台。石崎の夢は高校2年夏から3年春を戦った8人の仲間、2人の恩師の夢だった。

 開幕1軍がくっきりと見えた今月上旬。茨城県西部にある古河市で相棒が立ち上がった。三和時代、石崎とバッテリーを組み主将を務めた岩田拓巳さん(24=会社員)だ。寄せ書き色紙作成計画に残りの8人もすぐに反応。岩田さんは県東部に位置する水戸や東京へも足を運び、わずか1週間でサプライズプレゼントが完成した。2人の恩師の思いもしたため色紙は関西へ。京セラドーム大阪で受け取った石崎はまさかの展開に言葉を失った。

 石崎 すごいですね。うれしい。はい、うれしいです。うれしいですね。

 笑顔と対照的に、リアクションはぎこちなかった。当時監督を務めた金井光信さん(38=現茨城・境高校教諭)は8人の行動力に目を細め「あいつらは漫画のようなチームだった」と思い返した。高2の夏、茨城大会で3回戦まで進出すると、無名右腕に県内の注目が集まった。だが、3年生が引退すると残った部員はたったの9人だった。

 8月にはいきなり試練がやってきた。40度近い気温での練習試合。二塁を守る金久保達也さん(24=会社員)が守備の際、相手走者のスパイクの刃で負傷。パックリと傷が開いた。それでもベンチに戻ると黙ってテーピングしている。「こいつらすごいなと思いましたよ。病院で何針縫うのかと考えていたら、僕に何も言わず試合に戻るんです。これが10人だったら交代。9人だからこそ強くなったんだと思います」(金井監督)。土日は必ずダブルヘッダーで練習試合が組まれた。石崎は1試合目に完投し、2試合目は遊撃や一塁でフル出場。特別扱いなどもちろんなかった。

 仲間が口をそろえるのは石崎の「おとこ気」だ。正捕手の岩田さんもその1人。中学まで野球経験がなく、猛特訓の末に2年春から石崎の相棒を務めた。仲間の努力を知る石崎が、配球やキャッチングを責めることはなかった。

 岩田さん 剛のボールを捕りたかったんです。本当に仲間思いのやつだった。僕はとにかく必死に食らいついて…。145キロ出たときはみんなで騒ぎました。

 だから、仲間たちは三和のエースの門出に立ち上がった。9人中3人は高校から野球を始めた初心者。そんな環境でも石崎には夢があった。高3夏は10球団26人のスカウトを前に、茨城大会1回戦で散った。色紙を手に持ちながら遠く茨城の仲間に誓った。

 石崎 心残りだったのが、このメンバーで甲子園に行けなかったことなんです。そのとき行けなかったみんなの思いを持ちながら戦っていきたいです。

 プロ野球界の常識からは外れたサクセスストーリーだ。小さな小さな高校のエースが日本最高峰の舞台で勝負をかける。【松本航】