こんなイキのいい若虎を待っとったんや。5年目で初めて開幕ローテ入りした阪神岩本輝投手(22)がヤクルト打線を7回5安打1失点。1点差のヒヤヒヤで逃げ切り、12年9月以来となるプロ3勝目を手にした。南陽工(山口)の先輩で広島の抑えだった故津田恒実氏のように、強気に攻め込む闘志満々のピッチング。期待膨らむ孝行息子が誕生した。

 狭い神宮にも、強力ヤクルト打線にも、冷たい雨にも岩本は負けなかった。1球1球に約2年半苦しんだ分の思いを込めた。7回5安打1失点でマウンドを降りても表情は変わらない。12年9月27日ヤクルト戦(神宮)の最後の勝利から約2年半、916日かかった。1勝の重みをかみしめ、試合後のハイタッチでようやく笑みがこぼれた。

 岩本 ずっと勝っていなくて、やっぱり1勝は大変だなと思いました。1人1人向かっていく気持ちを忘れずどんどん行きました。

 何度も訪れたヤマ場では堂々と真っすぐを投げ込んだ。最大のピンチは1点リードに迫られた7回2死二塁。こん身の101球目も直球だった。7番森岡を二ゴロに打ち取りリードを守り抜いた。7回の最初は2点リード、無死二、三塁だった。和田監督はそれでも続投を選んでくれた。「ローテを長いこと守れる。そういうピッチャーを作っていかないといけない。ベンチの期待に応えてくれた」(和田監督)。逃げるわけにはいかなかった。

 岩本 真っすぐが良かったのでそれを中心にコースに投げました。ピンチもいいところで切り抜けられました。

 「何かを変えないといけないんです」。この2年半はそれが口癖だった。13年の年末には故郷山口でノースローの調整法を用いた。従来は毎日行っていたキャッチボールをやめた。「それがいいのかわからないけれど、とにかく何か変えないと」。根拠などない。必死だった。今オフは呉昇桓とグアム合同自主トレを敢行。オープン戦防御率0・71で開幕5番手をつかんだ今春も直前でぐらついた。

 3月25日の練習試合・日本新薬戦で5回7安打5失点。登板後は山口投手コーチの話を約15分間、直立不動で聞いた。「マウンドから見下ろせていない。何をよそ行きの投球しとんねん。これまではできていたやろ!」。チャンスは1度。「打たれたら終わり。僕は下に落ちるだけ」と自分に言い聞かせた。1週間前に5個与えた四死球はこの日、1つもなかった。

 岩本 1チャンスを生かせた。この1勝で終わらず、どんどん勝っていきたいです。

 大歓声の球場を後にすると、表情を引き締めた。岩本の目標はもう「1勝」じゃない。【松本航】

 ◆岩本輝(いわもと・あきら)1992年(平4)10月21日、山口・防府市生まれ。華城小4年から「華城クラブ」で野球を始める。南陽工で2年春、3年夏に甲子園出場。10年ドラフト4位。昨年まで8試合2勝1敗、防御率1.37。182センチ、82キロ。右投げ左打ち。