快気祝いには申し分ない快勝だ。インフルエンザが完治した巨人原辰徳監督(56)が6試合ぶりに現場復帰。広島相手に終始主導権を握り、危なげなく逃げ切った。3番橋本から6番井端まで、打線の中心が全員打点を挙げた。「黒子こそ監督業の理想型」の哲学を選手たちが実践し、貯金を今季最多の3とした。

 薄暗いダッグアウトの上座から、原監督がスッと現れた。2回。覚悟が問われるギャンブルスタートで先制ホームを踏んだ井端に、かしわ手を2度打った。目を見開いて迎えた。据わりがいい風景にも「自分の中で新たなスタート。特に(感慨は)ないです」。巨人の日常が戻ってきた。

 選手たちは手を煩わせまいと躍動した。3回1死。三塁上の長野が千里眼を発揮した。二盗を試みた橋本への送球がそれた一瞬を合図に、果断にホームへ突っ込んだ。相手遊撃の田中が焦って、ボールをこぼした。記録はショートの失策でも「ほぼ本盗」の2点目。序盤にいやらしく主導権を奪うと、今度はロングドライブで畳み掛けた。

 歩をそろえて復帰のアンダーソンが、ボール気味の外角をつかまえ左中間へ。ベンチ上座からのかしわ手が、前橋の夜空に響く。5回はカウント3-0から橋本。3-2から坂本。チームにとって02年4月24日ヤクルト戦以来となる「三塁打-三塁打」を決めた。ともに逆方向。カウントを加味しても、大瀬良を悠々と上回った技術。監督を「それぞれ、いいところで1本。得点力が上がる。橋本は3番、続けてほしい」と納得させた。

 突き放したい7回無死一、二塁。打席に向かう4番坂本を呼び止めた。「任せた」と伝えた。この簡単な言葉を伝えることこそ、監督業の最も大切な仕事だと信じている。

 昨年9月、広島に1差と迫られ、同じ北関東遠征を迎えた。長野で先勝し、この夜と同じ地、前橋に乗り込んできた。上げ潮のカープ、総力戦の巨人。自身の柔軟な采配がクローズアップされた時期と重なった。

 原監督 監督が目立つって、まだまだ発展途上ってことだよ。監督業の究極は、黒子だと思う。座っていたら自然に勝っている。理想だな。「監督って、つまらない仕事」と言えて、本当に強いチームだと思う。

 ベンチ外から自軍を眺めた1週間。力んだ選手も、ノビノビ戦った選手もいた。原監督がいるだけでチームは落ち着き、昨年苦しめられた広島にも横綱相撲ができる。目指す理想郷「究極の黒子」となりうる力を、今のジャイアンツは備えている。【宮下敬至】

 ▼巨人は5回に3番橋本、4番坂本が連続三塁打。巨人の2者連続三塁打は02年4月24日ヤクルト戦の9回に代打斉藤→1番清水が記録して以来、13年ぶり。クリーンアップの連続三塁打となると、81年4月19日広島戦の7回に4番中畑→5番原が記録して以来。橋本の三塁打はカウント3-0から。今季の橋本は0ストライクからは右2、右本、左安、中安、左安、右2、左3と、7打数7安打の打率10割。