球団史に名を刻んだ男らしい仁王立ちだった。9回は2点リードの展開で阪神呉昇桓投手(32)がマウンドへ。先頭荒木に中前へ運ばれても落ち着いていた。バックスクリーンの旗は揺れる。マウンドでも風を感じる。とにかく球を低めに集めた。代打田中浩を追い込むと外角低めカットボールを打たせて自らゴロを捕る。併殺に仕留められなかったが、確実にアウトカウントを増やした。

 そして、森岡を左飛に抑える。粛々と仕事をこなすのがポリシーだ。強敵山田を迎えると藤井が近寄って言う。「風が強いから高めにいくと1発がある。低めに投げよう」。外角低めをしつこく攻める。カウントを整え、カットボールで空を切らせた。リーグトップタイの今季8セーブ目にも「先頭打者を出すと、ちょっとよくない。それが今日の反省点」と言う。この日は制球重視。剛柔を使い分けるクレバーさが光った。

 昨年12月。韓国ソウルの実家に帰ったときだ。手には濃緑のトロフィーを持っていた。昨季セーブ王に輝いた証しを母国で見守る両親に手渡したという。異国での生活は母が届けるキムチを食べてリラックス。勲章には支えてくれた感謝がこもっていた。

 今年もまた、歴史を紡ぐ。来日2年目で通算47セーブを積み上げ、阪神の助っ人ではウィリアムスと並んで最多タイ。「JFKでしょ。知っているよ」と微笑する。そして首をかしげて言う。「(記録は)今のところ考えていない。チーム成績が良くないし、いい方向にいくだけ」。仲間のため、家族のために戦う。心優しき剛腕が、頼もしく試合を締める。【酒井俊作】

 ▼呉昇桓が来日通算47セーブを挙げ、ウィリアムスと並んで阪神外国人最多となった。セ・リーグ外国人では8位タイ。なおリーグ最多はクルーン(横浜-巨人)の177セーブ。