巨人が走塁のスペシャリストの一打で、2夜連続のサヨナラ勝ちを決めた。同点に追いつかれた9回2死一、二塁で、途中出場の鈴木尚広外野手(37)が中前にプロ19年目で初のサヨナラ打を放った。代走での出場がメーンだが、今季は球宴にも初出場。円熟期を迎える仕事人が、この日はバットで貢献した。中5日で先発した菅野智之投手(25)は8回4安打無失点。9勝目はならなかったが同一カード3連勝への流れを作り、チームは首位阪神に0・5ゲーム差に迫った。

 快足自慢の鈴木が、笑顔でスピードを緩めた。9回2死一、二塁。エレラの直球を詰まりながら中前に落とし、初のサヨナラ打を決めた。ペットボトルを手にした仲間が、ベンチから猛ダッシュで迫ってきた。走れば逃げられたが、止まって水を浴びた。びしょぬれになり、長野と片岡には胴上げされた。「最高です。いい後輩に恵まれました。うれしかったです」と、興奮が冷めなかった。

 本来の持ち場は「代走」だ。1点が欲しいギリギリの場面で登場し、「絶対に走ってくる」という相手の警戒をかいくぐるのが主な仕事。「試合ではどうしても呼吸が速くなるんです」と言うほどの緊張感と戦う日々を送っている。

 重圧に打ち勝つため、欠かせないのがコーヒーだった。球場に向かう前、自宅で買ってきたコーヒー豆をひくのが日課だ。目をつむり、鼻から香りを吸い込み、お湯を注ぐ。「ずっと呼吸が速いと(精神が)持たない。ゆっくり呼吸して、リラックスしてから向かうんです」。遠征中は市販のコーヒーで楽しむ。今季は球宴にも初出場を果たした。日常の小さな積み重ねでセルフコントロール術を身につけたたまものだった。

 だからこそ、勝負どころの打席も冷静だった。ベンチからいつ代走を告げられるかの想像を繰り返すように、9回は「僕に打席が回ってくると思っていた」と心の準備を済ませた。「速い球に合わせて1発で仕留める」と雑念を捨てたからこその殊勲打。原監督は「打席数が少ない中でキャリアというか強さが出た。(中堅手が)前進したその前に落とすのだから、さすがですね」とバットで貢献した鈴木に最敬礼した。

 6連敗中だったDeNAに同一カード3連勝で、首位阪神と0・5差。原監督は中5日で菅野を立て、守護神沢村を途中降板と、勝利へのこだわりをちりばめた。「1人1人どろんこになり、汗まみれになって戦う時期だと思います」。勝負の夏を前に一戦必勝モードに入った。【浜本卓也】

 ▼鈴木がサヨナラ安打を放ち、巨人は11年10月11、12日阪神戦以来の2試合連続サヨナラ勝ち。鈴木はプロ19年目で初のサヨナラ安打で、V打も09年4月15日ヤクルト戦以来6年ぶり。最近では11年10月9日福地(ヤクルト)がプロ18年目、同年7月31日嶋(広島)がプロ17年目、96年8月15日川又(中日)がプロ18年目で初のサヨナラ安打を記録したが、鈴木の19年目は珍しい。