チェンよ、神様フォークで世界のエースになれ-。中日チェン・ウェイン投手(25)が臨時コーチとして沖縄キャンプに帯同している杉下茂氏(85)からフォークの重要性をたたき込まれた。球団史上最高のエースと言われる“伝説のOB”は今オフにもメジャー挑戦の可能性がある左腕に対し、米国での成功例、失敗例を挙げてフォークの改良を促した。

 世界を目指す左腕へ「フォークの神様」が忠告した。北谷球場のブルペン。心地よくミットを鳴らしていたチェンは杉下氏に呼び止められた。通算215勝を挙げ、球団史上初の日本一の立役者となった伝説のOBのアドバイスに真剣な表情で聞き入った。

 「メジャーに行きたいなら落ちる球を覚えなさいと言った。チェンジアップだけだと向こうに行くと力に負けちゃうよと。今、投げているのはフォークじゃない。落ちているんじゃなく沈んでいるだけだ」。

 チェンは昨年オフに球団と代理人交渉を行い、今季終了後に自由契約となれる権利を得た。メジャー挑戦の希望を持っているだけに今オフにも米大リーグ移籍の可能性がある。それを耳にしていた杉下氏は、どうしても言っておきたかった。チェンは現在、フォークを持ち球にしているが、元祖から言わせれば、それはフォークではないという。

 「佐々木(元マリナーズ)にしても斎藤(現ブルワーズ)にしてもそうだ。フォークがないと成功するのは難しい。(阪神からヤンキースへ移籍した)井川のようになっちゃだめだ」。

 「お化け」と言われたフォークを武器に、マリナーズの地区優勝に貢献し、日米通算381セーブを挙げた大魔神・佐々木。さらに横浜から海を渡った斎藤も鋭く落ちるフォークでメジャーで評価を上げた。逆にチェンジアップを武器に阪神から名門ヤンキースに入団した井川(現ヤンキース3A)はわずか2勝にとどまっている。実例を出した説得力のある説明に、チェンはうなずいていた。

 「もっといいフォークを覚えないといい投手になれないと言われました。技術的なことは何も言われていないですが、1カ月あるんで、いいフォークを投げられるようになりたい」。

 この日、初めてフリー打撃に登板したチェンは球速は120キロ台ながら、バランスを確認して回転のいい球を投げ込んだ。メジャー挑戦を胸に秘めてはいるが今季も落合竜の大黒柱。開幕投手最右翼の貫禄が漂う左腕に神様フォークが加われば、さらに大きな柱となる。連覇のため、そして将来的な米国での成功のために「神様」の下で1カ月間の修行に入るつもりだ。【鈴木忠平】

 [2011年2月5日10時21分

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