大相撲初場所(両国国技館)の初日を1週間後に控えた今月7日。地域に根ざす相撲部屋の、理想となるありようを垣間見た一日になった。

 再起をかける横綱稀勢の里(31)の調整を取材しようと足を運んだ東京・小岩の田子ノ浦部屋。だが、稽古は徒歩で10分ほどの小岩小学校で行っていると聞き方向転換。校庭に即席の土俵でも作り、小学生に教える交流会でもやっているのか…などと頭を巡らしながら学校に到着。ほどなくして敷地の隅にある建物の外に、黒まわしが置かれているのを発見。中では力士たちの稽古が行われ稀勢の里も、大関高安も汗を流していた。

 そばにいた江戸川区役所の腕章を巻いた関係者に話を聞くと、昨年12月24日に完成し、お披露目式が行われた「小岩小相撲道場」だった。この日は、そのこけら落としとして、田子ノ浦部屋の力士を招いた初稽古。連休を利用し出稽古に来ていた静岡・飛龍高校の相撲部員もプロの力士にぶつかり、活気にみちあふれていた。

 話は昨年1月28日にさかのぼる。直前の初場所で初優勝した稀勢の里の「初優勝 横綱昇進報告会」が、この小岩小で開催され約4500人の地元ファンが祝福した。その際、控室となった校長室で江戸川区の多田正見区長、稀勢の里らが集った席で、田子ノ浦親方から切り出されたという。「部屋の近くに土俵があるといいですね。倉庫でもいいんです。そうすれば子供に相撲を教えることで地元に貢献できますから。喜んでお役に立ちたい」。その言葉で区が動く。小学校と同じ敷地内にあった小岩第一幼稚園の園庭が、ちょうど空いていた。早速、夏には着工。更衣室、トイレ、シャワールームも完備した広さ約180平方メートルの道場が完成した。

 土の稽古場だけでも150平米近くはあろうかという広さはもちろん、天井も高く自然光も入るため、開放感もたっぷり。もちろん、相撲部屋の稽古場にある神棚、大鏡、しこ名がしるされた木札などはないが、プロの相撲部屋と見まがうばかりの作りだった。

 地域密着を図りたい部屋の要望と、それに呼応した自治体の全面協力で実現した相撲道場。「わんぱく相撲をやる子が、江戸川区だけで700人もいるそうです。これはもったいない。(小岩出身の第44代横綱)栃錦関の銅像も(JR小岩駅に)あるし、両国にも近いですから」と同親方。将来的には「稽古を見せるなどして相撲クラブが作られるようになれば」と地域貢献、相撲の普及を見据える。今後の活用法は未定ながら、多田区長も「ここを中心にわんぱく相撲など、いろいろな形で相撲を教えていただければ。相撲を通して人間教育の場になればいいですね」と熱望する。人間教育-。揺れる角界だが、国技に期待するそんな声があることを忘れてはならない。【渡辺佳彦】