関脇高安(27=田子ノ浦)が、場所後の大関昇進をほぼ確実にした。西前頭4枚目の宝富士を上手投げで退けて10勝目。昇進目安となる直近3場所での33勝に届いた。八角理事長(元横綱北勝海)や昇進を預かる審判部からは相撲内容の評価も高く、今日13日目の横綱日馬富士に勝って確定させる。横綱白鵬は平幕栃煌山を退けて全勝を守り、この日は不戦勝だった日馬富士が1敗で追う。

 高安もやはり人の子。硬さがあった。今場所初めてもろ手で立つと、突っ張る意識とは裏腹に「反射的にまわしを取りに行ってしまった」。肩越しの右上手。宝富士を呼び込む「危ない相撲」だった。だが、思い切りが良いのも今場所の高安。「1度行ったら、上手から振り切るしかない」。強引に振り回し、最後は力ずくで転がした。割れんばかりの拍手が身を包んだ。

 昇進目安の33勝に届いた。明確な昇進の声はまだないが、内容への評価は高い。八角理事長は「安定した力はつけた印象。特に今場所は落ち着いている」とし、審判部の藤島副部長(元大関武双山)も「12日目で一応の目安ですからね。内容は力強い。何となく勝っているわけではなく、力がある勝ち方だ」と示唆した。

 05年2月に門をたたいた鳴戸部屋。そこに入幕直後の稀勢の里はいた。初めて胸を借りたのは1年目。今でも覚えている。「きついぶつかり稽古はその時が初めて。胸がすごく重かった。食らいつくのがやっと。初めて稽古の厳しさを感じることができました」。2年半で三段目上位に上がると毎日のように鍛えられた。夜も連れ出されると「おいしいものがたくさん」。一心不乱に食べた。だから感謝に堪えない。「この体は横綱のおかげです」。

 今、稀勢の里はいない。10日目の夜に、こう言われた。「休場するけど、頑張ってな」。大関とりにではなく、優勝争いだと受け止めた。13日目は1敗の日馬富士。勝てば昇進は確実になる。だが「自分のこれからの相撲人生で大事な一番。しっかりついていきたい」。その目は賜杯争いしか見ていない。【今村健人】