<フィッシング・ルポ>

 茨城・那珂湊沖の深海から“レッドモンスター”が現れた。深場釣りにこだわる「北翔丸」(桜井清太郎船長=68)では、今冬、まっ赤な魚体のバラメヌケ6キロを仕留めている。大物ばかりではなく、1~3キロ前後のお手ごろサイズも数多く掛かっており、桜井船長も「間違いなく、今シーズンはメヌケの当たり年だ」と自信を持つ。その赤い大漁節の現場に同乗した。

 観光客でにぎわう那珂湊の奥から出漁した。朝5時半。1時間ほどかけてバラメヌケの漁場に着いた。水深は240~260メートル。深海だ。桜井船長の押すブザーの「ブッ」という合図音の直後にトモ(船尾)から順に350号のオモリをドボン、と5本バリ仕掛けと一緒に落とし込んでいく。着底したら糸フケを取る。あとはひたすら待つ、待つ、そして待つ。

 桜井船長がバラメヌケに出会ったのは40年以上前になる。当時は飲食店経営者で、釣りは趣味だった。マイボートを操船して、浅場のヒラメを好んで狙った。ある日、深場釣りに同行して、赤い大きな魚の存在を知った。それがバラメヌケだった。

 桜井船長

 世の中にこんなにおいしい魚がいるなんて信じられなかった。もう、その日からメヌケしか見えなくなった。この魚をいろんな人に知ってもらいたいから、釣り船を始めた。200メートルの深場から何が出てくるか分からない。浅場では体験できない魅力が深場にはあるでしょ?

 桜井船長がバラメヌケにこだわる、深場にこだわる理由はここにあった。

 船内が動いたのは釣り始めてから約2時間後の午前8時半。左舷トモ2番目の久保田章さん(43=石岡市)のサオがギュンッ、と曲がり小刻みに震えた。電動リールのスイッチを入れてゆっくりとしたスピードで巻き上げた。桜井船長は「それでいいんだ。慌てて巻き上げることはねえ」と答えた。

 久保田さんは昨年末から始めたばかりだが、その魅力に取りつかれて、この日で9回目の釣行だった。海面に赤い魚体が浮かんできた。2キロ近い良型だ。ゆっくり上げてきたので、水圧変化に影響されなかったのか目は飛び出ておらず、クリンとしたつぶらな瞳のままだった。「いや~、やっぱり気持ちいいねぇ」と久保田さんは笑顔を見せた。

 しばらくして、隣の綿貫直登(なおと)さん(47=八王子市、バラメヌケ歴5年、過去最大4キロ)が1キロ前後を釣り上げた。この直後にモンスターが出た。右舷トモの吉沢達巳さん(53=2年、4キロ)が真剣な表情で格闘していた。電動リールが何度か空回りをして魚体が浮かび上がった。デカい。目は卓球…いやテニスのボールぐらいに飛び出て、大きなリュックサックほどはある。

 桜井船長がギャフをかけて引き上げた。約6キロ。「こんなの初めて。ブツブツ切られていたから大物がいると思った。仕掛けの幹糸(全長7メートル)は16号だったけど、思い切って30号にして大きいのを狙った。狙い通りです。うれしい」と吉沢さんは息を弾ませた。

 船内が一気に盛り上がった。ただ、大物狙いで仕掛けの糸を頑丈にして太くすれば、1~2キロクラスでは掛かりにくくなってしまう。右舷トモ2番目の藤板義貞さん(65=大洗町、10年、5キロ)がヒットした。巻き上げている途中で断続的にサオがブルンッ、ブルンと振動した。5本バリのうち3本に掛かっていた。幹糸は16号。数を掛けるなら仕掛けも細めにした方がいいようだ。

 その後も船内でポツポツと上がり、2度目の挑戦の石原健(たけし)さん(42=市川市)も3キロを筆頭に計3匹を釣り上げ「初めてバラメヌケを釣れました。あ~、うれしい。ハマりそうです」と顔をほころばせた。一方、乗船した11人中5人はバラメヌケに出会えなかった。この日初挑戦だった宮沢英臣さん(54=川崎市)もその1人だが「初めてで分からないことだらけだった。悔しい。でも、次回は釣れるように頑張るよ」と話した。赤いモンスターは、釣り人の心に火をつける何かがあるようだ。【寺沢卓】

 ▼宿

 日刊スポーツ新聞社指定、茨城・那珂湊「北翔丸」【電話】029・226・5941。バラメヌケ乗合は要予約で、午前5時30分出船。エサ(イカ、サンマ)、氷付きで1万5000円。宿泊も可。第3月曜定休。交通は車利用が便利。常磐道から東水戸道路に入り、水戸大洗インターで下車して、那珂湊漁港に入り、直進して左折、さらに右折で船前。