厚労省関東信越厚生局麻薬取締部に元女優の自営業高樹沙耶(本名・益戸育江)被告(53)らが大麻取締法違反容疑で逮捕されて1カ月。長野県では男女22人が同法違反容疑で逮捕されるなど、大麻事件が相次いでいる。警察庁の統計では16年1~6月に大麻で検挙された人数は1175人で前年比24・7%増。5年ぶりに年間2000人を超えた昨年をしのぐ勢いだ。大麻犯罪が増加する中、京都ダルクで、大麻と覚醒剤の薬物依存症に日々向き合う男性(47)に話を聞いた。

 京都市内の住宅街にある京都ダルクの相談室。18歳から20年、大麻の乱用を続けたという男性は、落ち着いた口調で語り始めた。

 「大麻をやると食べ物がおいしくなるし、見るものもきれいになる。だから花見、海の景色、映画、なんでも感動が強なる。お笑い番組なんて殺人的に面白い。一般の人がわかり得ない感覚を味わってる優越感みたいなものが強かった」

 男性は近畿地方で生まれ、高校卒業後にスーパーに就職。シンナーを使う知り合いもいたが「クスリだけはアカンと見下していた」という。そんな自分がなぜ大麻に手を出したのか。

 「バンドマンの先輩がマリフアナ(大麻)を吸っていてかっこよく見えた。僕も吸ったら大したことなかった。大丈夫と思い、自分でイラン人から買うようになり、はまっていった」

 男性は次第に「他の違法なもん買う怖さがなくなっていった」と話す。20代でマジックマッシュルーム、LSD、MDMAなど「手に入ればなんでもやった」。まさに「ゲートウエー(入門)ドラッグ」だった。

 20代後半で結婚し子どももできた。仕事も親の会社で働き「はたから見れば幸せな家族だった」。しかし「どこか退屈な感じ」で、27歳の時、覚醒剤を初めて使った。「それからは覚醒剤打った後、眠れないと大麻吸って、朝起きて食欲がなくて大麻吸い、また覚醒剤、酒、大麻、覚醒剤、大麻の繰り返し」だった。

 大麻を使うと「ダラッとする」ため、職業も転々とした。「最後はトラック運転手。29歳でした。配送先で見張られている妄想がひどなって運転台、荷台、トラックの下はいずり回って、『警察がいるんや』と大騒ぎして。警察に突き出されました」。

 30歳で大阪ダルクに入ったが、やめてはスリップ(再使用)の繰り返し。「4人家族で生活保護を受けても、家族のことは考えず、明日はどうやってクスリやるかしか考えられなかった」。そんな生活を繰り返しながら家族と迎えた38歳の誕生日にふと気付いた。

 「大麻の依存性のあるなし、クスリの違法合法は別として、自分の場合だけ考えると、このままでは人生が立ちゆかなくなる」

 その日のうちに京都ダルクに入って以来10年、薬物を絶った。大麻、覚醒剤から逃れる特効薬はない。頼れるのは、自分の意思だけだ。男性は家族の存在と将来を考え、酒も含めて薬物を使わない1日1日を積み重ねている。【清水優】

<最近の大麻や薬物事件>

 ▼15年10月 高校生同士で大麻を売ったり、所持したとして京都市の高校生4人が逮捕される。京都府警は17~19歳の少年ら13人を聴取。全員が吸引を認めた。

 ▼15年11月 小学校6年の男児が大麻を吸ったことが分かり、京都府警は男児の兄で高校1年の少年を大麻所持容疑で現行犯逮捕。

 ▼16年2月 元プロ野球選手清原和博元被告を覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕。

 ▼4月 C-C-B元メンバー田口智治元被告を覚醒剤使用容疑で逮捕。

 ▼6月 俳優高知東生元被告を横浜市内のラブホテルで覚醒剤所持、使用、大麻所持したとして逮捕。

 ▼10月 元女優高樹沙耶被告を大麻取締法違反で逮捕。医療用大麻普及を主張。

 ▼11月 大麻を隠し持っていたとして、長野県内の限界集落や静岡県に住む27~64歳の男女22人を大麻取締法違反容疑で逮捕。

 ▼同28日 警視庁は歌手ASKAこと宮崎重明容疑者(58)を覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕。14年9月に同法違反と麻薬取締法違反の罪で懲役3年、執行猶予4年の判決を受け執行猶予中。同25日に「盗聴されている」と110番し再使用の疑いが発覚。同容疑者は容疑を否認。