20日、第45代大統領に就任した共和党のドナルド・トランプ新大統領(70)が、首都ワシントンの連邦議会議事堂前で就任演説を行った。

 就任演説は選挙で分裂した国民を融和し、団結させる役割があります。しかし、トランプ大統領の演説は「エスタブリッシュメント(支配階級)は自分たちは守ったが、この国の市民は守らなかった」とか「アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきた」とか、既成政治と外国に怒りの矛先を向け、選挙中と同じように仮想の敵をつくっていました。

 多くの人はトランプは大統領に就任すれば常識的になるだろうと期待していました。僕も就任演説くらいは常識人を装うと思っていました。でもオバマ大統領に対する礼の言葉は少なく、選挙を戦ったヒラリーについては全く触れなかった。融和の言葉はなく、支持者の怒りをあおるような言葉を連呼する。就任演説ではなく集会演説です。

 人種に触れたのは「黒人でも褐色でも白人でも同じ赤い愛国者の血を流す」という1カ所だけです。閣僚人事を見てもアジア系、インド系はいますが、共和党員の中でも極端に右の人で、人口の16%を占めるヒスパニック系は1人もいません。分裂を乗り越えることを考えていないのでは。就任式の会場を見てもオバマ夫妻以外、有色人種が見当たらなかったのは異様。

 コアの支持者だけに向き合っているのでないかと懸念しています。(タレント)

 ◆パトリック・ハーラン 1970年11月14日、米コロラド州生まれ。ハーバード大学比較宗教学部卒業後の93年に来日し、吉田真とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。東京工業大学非常勤講師。日本人の妻と1男1女。近著に「大統領の演説」(角川新書)。