安倍晋三首相は7日夜、緊急事態を宣言し、官邸で会見に臨んだ。感染防止の最前線に立つ医療従事者らへの謝意、経済対策の手厚さを自画自賛しながら「ウイルスとの闘いに打ち勝つ」と、感染終息への執念を口にした。しかし、実際に1カ月で事態が収束するかは不透明。首相も解除の時期を明確に答えなかった。強制力はなく、すべては「国民頼み」だからだ。首相の政治生命も左右しかねない1カ月の試練。結末のかぎを握るのは国民だ。

特措法を受けた初の緊急事態宣言。感染防止のため通常の会見室ではなく、官邸のホールで記者の人数も絞って行われた会見で、首相は、感染拡大防止のための国民への「お願い」を何度も繰り返した。

会見は、医療従事者や感染対策に当たる関係者に「日本国民を代表して感謝申し上げる」などの謝意で始まった。宣言の目的の1つが医療崩壊の阻止だが、現在のペースで感染が広がれば、感染者が2週間後に1万人、1カ月後に8万人を超えると指摘。「事態は切迫している」と訴えた。

「3密」が重なるナイトクラブやカラオケ、ライブハウスへの出入りを控え、多人数での会食を行わないようあらためて要請。地方への移動も「厳に控えてほしい」と、くぎをさした。

「この国家的な危機にあたり、ウイルスとの闘いに皆さんのお力をお借りしたい」。感情に訴えかけ、鼓舞するような表現も目立った。東日本大震災後の日本を念頭に「共に力を合わせれば再び希望を持って前に進める。ウイルスとの闘いに打ち勝ち、この緊急事態という試練も必ずや乗り越えられる」と、結束も呼びかけた。しかし、相手はウイルスだ。1カ月でうまく収束するかは見通せない。

会見に先立つ衆院議院運営委員会の質疑では、宣言の解除時期を問われ「専門家の評価をもらいながら判断する。まずは感染拡大防止に全力を尽くす」と述べるにとどめた。「都市封鎖(ロックダウン)や道路の封鎖はまったくない」と強調した通り、宣言に強制力はない。首相が「すべては皆さんの行動にかかっている」と認めたように、国民頼みの側面も強い。

「緊急事態を1カ月で終えるには、人との接触を7割~8割削減することが前提。拡大させないには何より、国民の行動変容、つまり行動を変えることが大切だ」とも、訴えた。1カ月で終息が進まなければ、首相の政権運営にもかかわる。「国民頼み」の1カ月が幕を開けた。【中山知子】