政府の観光支援事業「Go To トラベル」開始から1カ月が経過した。国内外で宿泊施設を運営する星野リゾート・星野佳路代表(60)に、その効果や問題点を聞いた。今後の観光産業の展望や「ウィズ・コロナ」時代を生き残るための新たなビジネスチャンスも語った。

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開始から1カ月が経過した「Go To トラベル」について、どのように受け止めているのか。

「3月に制度設計された当時、(詳しく)コロナのことが分かっていなかったのはやむを得ないことで、改善すべき点はいくつかあると思います。今、分かっている知識を踏まえ、微調整していった方がいい。1カ月ですから、ここで十分にできると思います」

どのような微調整が必要なのか。

「もともと需要がある繁忙期を盛り上げるのではなく、需要がない平日などの閑散期を下支えする方法です。土日や連休、お盆、年末年始などの繁忙期の観光地は稼働率100%。コロナで稼働率が60~70%になっていますが、(施設内の)レストランも人と人の間隔をあけないといけないから、収容人数が落ちています。もともと30~40%だった平日の稼働率を50~60%に上げれば、観光地側の(繁忙期などの)3密回避もしやすくなります」

感染再拡大の中で「Go To」を始める意味はあったのだろうか。

「いつ始めてもいい制度だと思っています。緊急事態宣言が出ない限り、一部の地域や一部の年齢層、形態の旅行を外したりしないで、1年から1年半は続くコロナ期を淡々と下支えするような制度にしなければいけない。東京を外すべきではなかった。早く戻した方がいいと思っています」

今後、観光産業はどうなっていくのか。

「もともと28兆円という市場規模があり、工場などの製造業と違い、どこかに集中しているわけではなく全国どこでも可能な産業。地方の雇用の維持、経済基盤を支える意味で大事な産業で、市場成長性があると思います」

ウィズ・コロナ時代を迎え、どうすれば観光産業が成長できるのか。新たに見えてきたものは何か。

「テレワークや(観光地などで休暇を取りながらテレワークする)ワーケーションが残る気がします。ものすごく大きなポテンシャルを持っている。1週間に1、2日、テレワークしていただくだけで連泊ができる。今まで閑散期だった平日などを埋めるものすごく大きな力になります。ただ今まで連泊が少なかったから、食事のバリエーションが少ないことが大きな課題だと思っています」

星野リゾートの現状はどうなのか。

「夏休みは、前々から予約するので『Go To』と関係なく7、8月は相当戻ってきました。45施設のうち、4分の3くらいはだいぶ需要が戻っています。一方、北海道や感染拡大した沖縄、インバウンド比率が高すぎた東京、そして京都、大阪が戻り切れていない。『マイクロツーリズム』(=自宅から1~2時間圏内で行ける旅行)市場を頑張りましたので、京都は近隣の関西圏からの方も多く、赤字レベルにならなくて済みました。マイクロツーリズムは経済危機やウイルスみたいなことがあった時にも、すごく効くと思います。リスク分散にもなります」

コロナ収束の兆しが見えない中、東京五輪が1年後に開催される予定になっている。

「五輪期間中に儲(もう)けましょう、ということで投資するのはまったくの無意味だと思っていて、そういうことでホテルを設計していませんが、無観客で構わないので、私は開催すべきだと思ってます。東京の今、日本の良さをアピールすることは、長期的には観光需要につながる大事なイベントになると思っています」

星野氏はコロナ禍でも、長期的な視点に立つことが大切だと考えている。【近藤由美子】

◆星野佳路(ほしの・よしはる)1960年(昭35)4月29日、長野県生まれ。慶大経済学部卒。米コーネル大ホテル経営大学院修士課程修了。91年に星野温泉(現・星野リゾート)4代目社長に就任。山梨県「リゾナーレ」などのリゾート再建に取り組む一方、星野温泉旅館を改築、05年「星のや軽井沢」を開業。「星のや」「界」「リゾナーレ」など5ブランドを中心に国内外45施設を運営。