近所に週末ごとに現れるアルファ・ロメオ。後ろのスポーツクラブに来ているのかしらん? たぶん、ふだんの足には故障しない日本車とか乗っているのでしょうね
近所に週末ごとに現れるアルファ・ロメオ。後ろのスポーツクラブに来ているのかしらん? たぶん、ふだんの足には故障しない日本車とか乗っているのでしょうね

税金がかからない車

 「自動車税の領収書を下さい」

 「ないよ」

 「え? 払ってないんですか?」

 「いや。40年以上前の車だから、自動車税は払わないでいいんだよ」

 日本の友人が古いイタ車を買いたいというので手伝った。上記は売主とのやりとり。ちょっと呆気にとられた。

 イタリアでは日本の重量税に相当する排気量に準じた自動車税がかかる。僕の約20年前のNissan車(2000ccで96馬力、排ガス基準が下から2番目のEURO2)で年間270ユーロ(約3万5000円)ほど。

 調べてみたら、今年から施行された法律で登録後30年以上経過した車には、これがまるまるかからない。対象となる車の税金の総額は年間750万ユーロにもなるが、財政難であるはずのイタリアがこの歳入を放棄したのにはちゃんとわけがある。

クラシックカーが海外に流出

 ひとつには20年落ち以上の自動車は中古車販売店で大量の不良在庫を抱え、売れずに困っていること。もうひとつは、2000年頃までイタリア国内で販売されていた有鉛ガソリンによる排気ガスによる大気汚染が問題となり、有鉛ガソリンの販売中止に伴って、国が買い替えのための補助金を出したこともあり古い車が一掃され、貴重なクラシックカーも多く海外に売られてしまったこと。

中古車店のショーウィンドーに収まる2台。イタリアは所有者がかわってもナンバープレートはかわらないので、この小型の物が人気(1度登録を解除すると新しいナンバーになる)
中古車店のショーウィンドーに収まる2台。イタリアは所有者がかわってもナンバープレートはかわらないので、この小型の物が人気(1度登録を解除すると新しいナンバーになる)

 これは文化の喪失でもあると思ったACI(イタリア自動車クラブ)を初め多くの団体が古い車の自動車税撤廃を政府に求めてきたのだ。

 ドイツやイギリス、フランスなど欧州各国にはヒストリックカー減税や免税がある。反して日本は車は古くなれば増税されてしまう。

土曜日しか乗らないよ

 環境問題に目を移しても車の排気ガスがもたらすCO2だの廃車に伴う環境問題だの口にする人がいるけど、10年ごとに買い換えている人と、40年間ずっと乗り続けている人とでは、個人単位で車に関するゴミや温暖化問題ってどうなんだと思う? そもそもヒストリックカーは毎日の足に使う車ではない。件のオーナーも「土曜日しか乗らない。日曜日は運転の下手なサンデードライバーが多いし。天気のよい土曜日に愛着のある車で気分転換のドライブをするのが楽しみなんだ」と言う。

 ちなみに、イタリア語ではこういう車は古いを指す形容詞のヴェッキオ(vecchio)ではなくエポカ(epoca)と呼ぶ。フランス語のベル・エポック(華やかな時代)と同義の「時代物」の意味だ。古い車に対する愛情を感じる呼び方だと思う。(イタリア・ミラノから新津隆夫。写真も)