伊調馨(32=ALSOK)がコブロワゾロボワ(23=ロシア)を残り4秒で逆転し、女子で五輪史上初の4連覇を果たした。今年1月の国際大会で13年ぶりの黒星を喫したプレブドルジ(モンゴル)を破って勝ち上がった相手だった。同じく4連覇を目指す53キロ級の吉田沙保里(33=フリー)に良い形でバトンをつないだ。

 第1ピリオドは相手の消極姿勢からのアクティビティタイムで1点先行したが、2分すぎにタックルに入ったところで右足を取られ、逆にバックを取られて2点を失い逆転された。第2ピリオドは攻めたがポイントを奪えないまま終盤を迎えた。残り30秒で相手がタックルに入ってきたところを逃さずつかまえた。相手につかまれた右足を必死で外すと、残り4秒でバックを取った。2点を加え逆転。そのまま終了の笛が鳴った。

 「相手がタックルに入ってきてくれたので、最後のチャンスだと思って、ここしかないと思って取りにいったんですけど、取れて良かった」と劇的な逆転を振り返った。

 勝ち名乗りを受けるとホッとした表情を浮かべた。普段は勝ってもパフォーマンスはしないが、日の丸を渡されると掲げてマットを1周して涙を浮かべた。マットを降りるとスタンド最前列に降りてきた姉・千春さんに駆け寄り握手。父と14年11月に亡くなった母トシさんの遺影を見て涙があふれた。「最後はお母さんが助けてくれたと思います」と涙声で話した。

 4度目の五輪表彰台で聞く君が代。もう涙はなかった。口ずさみながら、静かに上がっていく日の丸を見つめた。天を仰いで目をつぶった。顔を正面に向けると晴れやかな笑顔になった。

 「内容がもっといい試合ができれば良かったと思いますけど、金メダルを取ったことでたくさんの人が喜んでくれたので良かったです。自分一人の力では勝てなかったと思いますし、たくさんの人が背中を押してくれたので最後のポイントが取れたと思います。きつくて苦しくてつらい部分が多い4年間ですけど、終わってみるとオリンピックって本当にいいものだなと思います」。

 試合後にマットを降りる際は試合場に向けて深く一礼した。「アテネからここまで。区切りとしてリオを考えていたので、周りにいる人、日本で応援してくれる人に向けて感謝を込めました」と話した。すべてをかけて臨んだ五輪で、女子の個人種目では誰にもできなかった金字塔を打ち立てた。