序章
松本喜四志(まつもと・きよし)杜氏、62歳。石川・輪島市出身の能登杜氏。16歳のときから酒造りにたずさわり杜氏になったのが30歳、以来32年間、全国の銘醸蔵での経験をへて名杜氏としての評価を勝ち得てきた。玉乃光酒造に招かれたのは3年前、2年目からは通年勤務の製造技術部長兼杜氏として、玉乃光の酒造りに取り組んでいる。松本杜氏に玉乃光酒造の招きに応じた理由を聞いてみた。
「正直なところ、伏見の蔵元がこれほど純米酒造りに心血を注いでいるとは、恥ずかしながら存じませんでした。伏見の酒は上撰や下撰、本醸造などが占めていると思っていたのです。ところが玉乃光の酒を初めて口にした時、美味しさに驚き、まだまだ品質を上げることができるぞと感じ、依頼をお受けすることにしました」。
また、松本杜氏は、伏見というメジャーな酒所にありながら、玉乃光酒造が純米酒に徹した蔵元であることに共感、共鳴したとのこと。「玉乃光酒造では、備前雄町や播州山田錦、それに地元京都産 祝(いわい)など、国産最高級の酒米をふんだんに使い、純米大吟醸や純米吟醸を含めた純米酒造りに徹している。このような蔵での酒造りは、杜氏冥利に尽きる」。そして、市場には様々な吟醸酒やアル添酒が並ぶが、「米の旨味こそが、本来の日本酒の味わい」と言い切る。
松本杜氏のモットーは、「飲み飽きしない、旨味とキレのバランスが良い酒」とのこと。そんな理想の酒を生み出すには、よい酒米と、伏見の「伏し水」がふさわしいと言う。 「伏見の水は、どちらかと言えば軟水に近い水ですから、穏やかに発酵します。私の求めている麹や酒母造りにとても適しています。それに、良い酒を造る第一条件は原料処理にありますから、洗ったり浸したり、蒸したりする水の品質も大切です。特に、備前雄町を当社では大量に扱いますが、この米は非常にデリケートな処理をしなければなりません。米の粒が大きく、吸水バランスなどに細心の注意が必要なのです」。
玉乃光3年目の今年、松本杜氏と蔵人それに社員の呼吸も合い、設備特有の癖も飲み込み、杜氏が目指す「究極の域」に近づいたと目を細める。『純米大吟醸 備前雄町』『純米吟醸 山田錦』『純米吟醸 酒魂』玉乃光を代表する銘柄それぞれ、「今年はいいですよ!」と、控えめながら自信を覗かせる笑顔が頼もしい。(続く)


