●22歳にして“足跡”を残すジョーダン・スピース


 “ポスト・タイガー”と呼ばれる若干22歳のアメリカ人は、そのキャリアで他を圧倒している。

 アマチュア時代の2009年と2011年には全米ジュニアで優勝を遂げ、大学在籍時には全米代表にも選ばれている。さらに2012年全米オープンでは、21位でローアマチュアを獲得した。

 そしてプロ入り。ジョーダン・スピースがPGAツアーに本格参戦したのは2013年のことだ。その年、早くもジョンディアクラシックで優勝し、タイガー・ウッズ以来の「10代でのPGA優勝」となった。2年後のマスターズ、タイガー・ウッズと並ぶトーナメントレコードタイの18アンダーで優勝を飾る。くしくも両者ともに21歳。

 またたくまにPGAトッププロに駆け上がったスピースの軌跡は、しばしばタイガーと比べられる。先述した全米ジュニアの複数回優勝やPGAの年少優勝記録、マスターズの最少ストローク記録での同年齢優勝など、若き日のタイガーが登ってきた道を着実になぞることができている。

 タイガーはデビュー当時からブッチ・ハーモンというコーチに師事し、成功をおさめた。そしてスピースの活躍の裏にも名伯楽の存在がある。

今年のマスターズ最終日、18番ホールに向かうスピース
今年のマスターズ最終日、18番ホールに向かうスピース

●若きトッププロを支えるコーチの存在


 ゴルフは個人競技だが、その分1人のプレーヤーに携わるスタッフの数は多い。スイングコーチを筆頭に、メンタル、フィジカルトレーナー、ショートゲームのコーチ、クラブ担当などが世界一の技術を支えている。

 今回、取り上げるのは、彼のスイングコーチであるキャメロン・マコーミックだ。

スピースとマコーミックの縁は長く、スピースが13歳のころから指導をしている。成長期前後から見ているため、スイング遷移や特性を把握しており、むやみやたらに型にはめるような指導をしないのが、選手にとってもメリットだ。

 私は、世界一の技術に裏打ちされたティーチングを学ぶべく、このマコーミックに会いに行ったことがある。


●マコーミックとの出会い


 私は今年2月にタイで行われたコーチングの勉強会で、マコーミックに話を聞くことができた。彼は知性的で物静かな雰囲気をもった人だった。

 彼が勉強会で示した資料は何とも細かく、プレゼンテーション用のスライドというよりは、分析レポートのようだった。資料には数値などが多く書かれており、欧米人がプレゼンテーションで行う、ジェスチャーを交えた軽妙な語り口で興味を引き付けるようなものとはかけ離れていた。

 私はマコーミックをゴルフコーチというより、学者のように感じた。

マコーミック氏(右)と筆者
マコーミック氏(右)と筆者

●マコーミックの教え


 マコーミックいわく、スピースは「ショートゲームの天才」だそうだ。

 「それはまさに衝撃だったよ。なんといっても彼はまだ13歳だったんだから」

 スピースと出会ったときの驚きをそう述べている。

 スピースは左手の甲をフェース面に見立てて、クラブとボールを自在にコントロールできる類いまれな才能を持っている。その独特の感性がショットの際に「左ひじが引ける」という動きに結び付くという。

 一般的に左ひじが引けると、ヘッドはアウトサイドインになり、強く直進性のある球が打てないので、通常の指導では真っ先に直す部分だ。私もきっとそうする。

 だがマコーミックはそのまま生かした。左手でフェースを自在に扱う天才的な感性を殺さないために。PGAツアーという世界最高峰の舞台で戦うようになっても、その部分だけは変更させることはなかった。彼のスイングのDNAだ。


●なぜ12番の池ポチャは起ったか


 スピースには「左ひじの引け」以外にもう一つの癖がある。それはトップで「手の位置が高くなる」ことだ。

 力のないジュニアがよく陥るが、飛距離を求めるあまりトップを高くし、上から下への重力を借りてヘッドスピードをアップさせる。無類の負けず嫌いだったスピースも例に漏れなかったはずだ。

 今年2016年マスターズ初日。私はスピースのトップオブスイングの高さが気になった。昨年制した全米オープンと比べて明らかにトップの位置が高い。

 最終日のフロントナインまで順調に首位を走っていたが、その違和感はマスターズ史上に残る悲劇となって姿を現すことになる。最終日の12番ティーショットだ。

 メンタル的な要因でバックナインに入りショットが乱れ、スイングの悪癖が一気に噴き出した。トップで手元の位置が高くなってしまった結果、クラブはアウトサイドから下り、インパクトで球がつかまらずフケ上がって、ショートしてしまった。手前のクリークに打ち込み、さらにドロップ後の第3打もダフって水の中へ。パー3で7打をたたき、首位から転落した。


●スピースと同じ悪癖を直すためには


 私が教えてきたアマチュアにも同じような現象に陥る人が多い。「飛ばしたい」という意識が強いあまり、腕に力が入り、自然とトップが高い位置になってしまうのだ。

 この場合、点ではなく線で振る意識を持ってみるだけで、それが直ったりする人もいる。ダウンスイングやインパクトで力を入れるのではなく、フォローサイドでヘッドスピードが最大になるように振るのだ。正しくヘッドが抜けていく位置にスパット(ライン上の目印)を置けば、よりフェースの向きを意識することができるはずだ。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログhttp://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)