新作映画が競い合うように封切られたゴールデンウイーク。人気シリーズ「相棒」も最新作が公開になった。舞台あいさつやCM、ポスターなどで主演の水谷豊さんを見るたびに、スターならではの“プロ意識”を垣間見た、ゴルフ場での一幕を思い出す。

 昨年10月、千葉県内で行われたプロアマ戦「たかの友梨CUP平尾昌晃チャリティーゴルフ」でのことだ。水谷さんはスタートホールの第1打を、左サイドのフェアウエーに運んだ。観戦エリアとプレーエリアを区切るロープから、およそ5メートル。熱心なファンにとって、間近で「警部どの」を見るチャンスが、早くも訪れた形になった。

 するとひとりの女性が、興奮のあまりロープをくぐって、第2打の構えに入ろうとした水谷さんに駆け寄った。「う、右京さん、サインして!」。おまけに右足で、思いっきり水谷さんのボールを踏み締めていた。ゴルフ界の常識から言えば、ありえない事態。運営スタッフはみな色めき立ち、あわてて女性を連れ出そうと駆け寄った。

 しかし水谷さんは、笑って周囲を制した。そして「おやおや、これは非常に勇気ある行動ですねえ」と快くサインに応じた。その上で「プロゴルファーのみなさんが、素晴らしいプレーを見せてくれていますから、ロープの外でちゃんと見ていてくださいね」とルールもきちんと説明した。

 ファンあってのプロ。水谷さんの姿を見て、あらためて気づかされた。水谷さんはプロゴルファーではないから、冷静でいられたとも言える。しかしそれでも「自分のことよりもファンのこと」と思っていなければ、自分のボールを踏んでいる相手に、杉下右京の口調を再現してまでファンサービスはできないだろう。

 そんな水谷さんのプロ意識が反映されているからこそ、相棒シリーズは多くのファンに支持され続けているのだと確信した。同時に、水谷さんを迎え入れた側の男子ゴルフ界はどうだろうか、とも思った。各選手がいいプレーを追及しているのは間違いない。しかしそれを、多くのファンに見てもらおうという意識は、果たして十分だろうか。

 3月の国内ツアー総会でも、試合数確保のためにと、プロアマ戦でのスポンサー接待強化の方針は示された。一方で、ファン層拡大の具体的な方針は、あまり見えてこなかった。多くの試合の決勝ラウンド入場料は5000~6000円。1000円程度で見られることもある米ツアーに比べると高額だ。

 集客数が少ないほど、競技運営を委託される「運営会社」にとっては利益が出るという方式が、長年主流でもあった。大会側から事前に渡された予算から、経費を引いた分が利益になる。入場者数が少ないほど、当然警備やトイレ設置などに割く経費は減る。選手たちを見ても、声援にリアクションを示さなかったり、サインした色紙を相手の顔も見ずに返す姿がある。

 それでも最近は「ファンあってのプロ」との意見を投げかけるトップ選手が出てきた。片山晋呉は9月開催のマッチプレー戦「片山晋呉招待ネスレ日本マッチプレー選手権」を立ち上げた。発表会見では、あえて国内ツアーと一線を画した理由を「最近のツアー戦は、少しスポンサー色が強すぎる気がする。昔の大会のように、ファンにどう見てもらうかを第一に考えるトーナメントをつくりたかった」と説明した。

 石川遼も「やはり、ファンあってのプロ競技。誰が足りないというのではなく、僕の中でその意識が十分ではなかった」と話すようになった。一時帰国して出場したつるやオープン、中日クラウンズの2試合では、誰よりもファンのサインの求めに応じていた。色紙を返す際に「応援に来ていただいて、ありがとうございます」と頭を下げていたのも印象的だった。

 片山と石川に共通しているのは「見てくれるファンが増え、競技自体や選手の露出が増えれば、自然と試合を開催してくれるスポンサーも増える。当然既存のスポンサーの利益にもなる」という考えだ。こちらの方が「プロアマ戦に訪れるスポンサー企業幹部の歓心を買うことで試合を増やす」という国内ツアー従来の方針よりも、競技とスポンサーの関係としては自然なもののように思える。

 プロアマ戦のおかげでツアーのスタッフや選手たちは、スポーツや芸能界の超一流プロや、大企業の幹部と接する機会が多い。これは他競技に比べて、ゴルフ界が非常に恵まれている点だと思う。水谷さんに代表されるようなファン第一のプロ意識や、少しでも顧客を増やそうという大企業のマーケティング意識を、学ぶ機会には事欠かないはずだ。【塩畑大輔】