岩田寛(33=フリー)が、フジサンケイ・クラシックでついにツアー初優勝を果たした。手にしていたパターは、9年間使い続けてきたオデッセイの2ボールブレードホワイトホット。最も近くで岩田の苦闘を見つめてきた「相棒」だ。

 完璧主義者ゆえに、かつては自分で自分を追い詰めて精神的に崩れるタイプだった岩田は「10メートルをガンガン決めていたかと思えば、1メートルからも4パットする」と評されていた。ある時、やはりショートパットを外し続けた岩田は、怒りのあまりこの「相棒」のシャフトを、ひざを使って真っ二つに折ってしまった。

 そして同行スタッフに「もう、ヘッドも捨てておいて」と言い放ち、会場を後にした。しかし宿舎に戻る乗用車の中で、岩田は徐々に落ち着かない様子になった。そしてついに「やっぱり、あのパターをまた使いたい」と漏らした。そんなことだろうと、スタッフは本人にばれないように、こっそりとパターのヘッドを持ち帰っていた。手際良くシャフト交換の手配も済まされていた「相棒」は、再び岩田の手に戻った。

 6年前のフジサンケイでは、プレーオフで1メートルを決められずに敗れたが、今回は1・5メートルのバーディーパットをしっかり沈めて勝った。時には岩田の感情を受け止め、無数の傷がついたパターヘッドが、優勝のカップに向けてしっかりとボールを押し出した。最後の最後で岩田の支えになったのは、やはり「相棒」だった。

 岩田と「相棒」の初優勝の報には、深夜の米国のホテルで触れた。米ツアーのプレーオフシリーズを戦う松山英樹を取材している。大学の先輩岩田を慕う松山も、やはりパターを変えないタイプだ。1週間前のドイツ銀行選手権の直前に、ちょうどパターの話題になった。スコッティ・キャメロンのピンタイプ。いつからこのモデルを使っているのかと聞くと「生まれた時からかなあ」といたずらっぽく笑う。「でもホント変えてないっすね。悪い時に変えても、新しいパターが自分に合っているか分からない。いい時は変える必要を感じない。だから結局変えないんすよ」。

 その時は、試合で連日30パット以上を記録するなど、極度のパット不振に悩んでいる最中だった。「ホント入ってくれない。実は他のタイプのパターを準備してもいるんです。でもそんな時に限って、パットが入りだしたりする。気まぐれなんですよね、このパター。オレに似て」。結局練習グリーンでは、いつものパターを手に、日が暮れるまでパット練習を繰り返した。すると今週のBMW選手権に入り、面白いようにパットが決まりだした。

 パターは最終的にスコアを決めるクラブ。選手の喜びや悲しみ、悩みなどを一心に受け止める。「パターを抱いて寝る」ではないが、ホテルの自室にパターだけは持ち込むという選手も多い。パットの名手と呼ばれる選手ほど、あまりパターを変えない傾向にあるようにも思う。付き合いが長くなれば、岩田や松山のように、紆余(うよ)曲折のストーリーも生まれる。選手と「相棒」の関係は、いつ取材しても非常に興味深いものだ。【塩畑大輔】