プレーバック日刊スポーツ! 過去の6月20日付紙面を振り返ります。2000年の1面(東京版)はタイガー・ウッズの全米オープン初制覇でした。

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<米ゴルフ:全米オープン>◇18日◇米カリフォルニア州ペブルビーチゴルフリンクス(6846ヤード、パー71)◇賞金総額450万ドル(約4億9500万円)優勝80万ドル(約8800万円)

 タイガー・ウッズ(24=米国)が圧倒的強さで新たなメジャータイトルを手に入れた。初日から首位を独走、最終日も4バーディーを決め、通算12アンダーで2位に15打差をつけるぶっちぎり優勝。最大ストローク差優勝のメジャー新記録、大会史上最多アンダーパーなど記録ずくめ。97年マスターズ、昨年の全米プロ選手権に続くメジャー3勝目となり、7月20日開幕の全英オープン(英セントアンドルーズ)で史上5人目のグランドスラム達成に挑む。

 ウッズの進撃を阻むものは何もなかった。球の行方を混乱させてきた海風もピタリと止まった。ほかの選手たちにはすでに10打差以上をつけ、望みは絶ち切ってある。だが、ウッズは表情を緩めることなく、乱れのないショットを繰り出していった。「私は挑戦し続けるのだ。これまでもそうだったように」。

 優勝争いの面白みを失った最終日、ウッズの技術だけがファンを魅了した。記録への挑戦が世界の目を奪った。衰えを知らない闘争心が2位に15打差という驚くべきメジャー記録を生んだ。

 圧巻は4バーディーを奪った後の16番だ。右ラフからの第2打がグリーン奥のラフへ。第3打はピンを3メートルオーバー。手元が緩んで球を打ち損ない、グリーンに届かなかったり、難しい下りのパットを残すことを嫌った。確実にラフから脱出し、長くても上りのパーパットを選んだ。1打の妥協も許さない。ねじ込んだパットに執念がにじむ。

 「いくつかの大事なパーパットが決まった」と勝因を挙げた。ヒントは開幕前日につかんだ。「うまくヘッドが出ないので3時間も練習した。するとハンドダウンし過ぎていたことに気付いた」。少し上体を起こして、手を高い位置にしてストロークしたら「『これでいける』って感覚がつかめたんだ」。努力の中で得た勝利へのカギだった。「上達の秘けつ? 酷な言い方だけど、練習しかない」。

 来月の全英オープンにはメジャー4冠制覇「グランドスラム」がかかる。あらゆるタイプのコースで最強であることを証明する称号だ。「残るタイトルが2個だと、今年の初めから分かっていたこと。今回勝ったからと、変わることは何もない。全英で勝利を狙うだけだ」。意欲は隠さない。24歳のウッズが達成すればもちろん最年少、最短記録になる。

 「父の日のプレゼントとして悪くないだろう?」。ウッズに無邪気な笑みが浮かんだ。父アールさん(66)は持病の心臓病が悪化して、フロリダの自宅で静養中だった。「97年マスターズの時も父の命は危なかった。でも医者が止めるのも聞かず、オーガスタに来た。私にパットを教えるためにね」。1歳になる前からクラブを持たせてくれた父を思い「早くこの勝利を届けたい!」。世界のスーパースターが、父を愛する息子の素顔に戻った。

 ◆タイガー・ウッズ 1975年12月30日、米カリフォルニア州サイプレス生まれ。3歳でハーフ48を記録。91年から全米ジュニア3連覇、94年から全米アマ3連覇。96年9月にプロ転向し、5戦目のラスベガス招待で初優勝。97年マスターズ優勝。昨年は8月の全米プロ選手権を制してメジャー2勝目を挙げた。187センチ、80キロ。

<記録アラカルト>

 ◆通算12アンダーは新記録。これまでは8アンダーで、48年ホーガン、80年ニクラウス、90年アーウィン、93年ジャンセンの4人。

 ◆大会記録タイ。80年ニクラウス、93年ジャンセンが出した数字だが、パー70だった。

 ◆15打差 最大差優勝のメジャー新記録。従来の記録は1862年全英オープンのトム・モリス・シニアによる13打差で138年ぶりに更新。全米オープンでは1899年にウィリー・スミスが記録した11打差が過去最大でこれを101年ぶりに更新した。

 ◆初日から単独首位を守っての完勝は、70年ジャクリン以来、30年ぶり大会史上5人目。ウッズ自身は米ツアーでは初めて。

 ◆シニア入りした選手を除く選手の中で通算20勝は、クレンショーの19勝、ノーマンの18勝を超え最多。

 ◆全米ジュニア(91、92、93年)全米アマ(94、95、96年)に続いて本大会を制したのは史上初。

 ◆グランドスラム メジャー4大会(マスターズ、全米オープン、全英オープン、全米プロ選手権)すべてで勝つことで、これまで4人が達成している。サラゼンが22年全米オープンから35年マスターズまで13年間を費やし初制覇した。また、ホーガンは7年間かかって53年に、プレーヤーは6年間かかって65年に達成。ニクラウスは62年全米オープン優勝から4年後の66年全英で4冠、26歳だった。

※記録と表記は当時のもの