【2007年10月01日付本紙より】

- 2007年10月01日付本紙より
◇30日◇静岡・富士スピードウェイ◇1周4・563キロ×67周◇観衆14万人
マクラーレンのルイス・ハミルトン(22)が、総合優勝に王手をかけた。大雨と濃霧のため、序盤19周は追い抜き禁止走行でスタート。通常に戻ってからはコースアウトや接触で、ライバルたちが続々と脱落する中、持ち前の冷静さを失わず、2時間0分34秒579で逃げ切った。これで今季4勝目。ポイント争い2位のアロンソがリタイアしたため、点差は12点に広がった。ハミルトンは中国GPに勝てば、事実上、史上初の新人総合王者に就く。
豪快に水しぶきを上げ、銀色の車番2が最後の直線に戻ってきた。カメラのフラッシュに、ホーンの音…。すべてが、新ヒーローの快走を祝福した。派手なガッツポーズはいらない。気温17度、冷たい雨に打たれた14万観衆の心を、ハミルトンは走りで熱くさせた。
気まぐれな「富士ウエザー」が、ハミルトンに課された試練だった。前日からの雨、雲の中のような深い霧で、視界はほぼゼロ。31年前、富士で初開催された時と同じような天候だった。レースはセーフティーカーに先導されて始まった。
開始19周は追い抜きを禁じられ、ハミルトンはポールポジションの利点を生かせない。34周目には、クビカに接触されてスピンした。だが意外にも、勝利のカギはこの事故だったという。「いきなり当たられて驚いたけど、あれで冷静になれた」。逆境に動じるどころか、力に変えてみせた。
レース対策は万全だった。チームが6000万ポンド(約141億2000万円)をかけて開発したレース用模擬マシンで、コースを分析。大雨や多重事故など、最悪の事態も織り込み済みだった。スポーツ心理学者からは、その心理状況をカウンセリングされていた。今季4勝のうち、3勝は未経験のコース。チームのスパイ騒動による処分、アロンソとの確執を封印する精神力は、訓練のたまものだった。
リタイアしたアロンソとの得点差を12に広げた。中国GPに勝てば、ライバルの成績に関係なく優勝が決まる。新人年の総合Vは、F1が創設された50年のファリーナだけ。実質的な「史上初」の新人王者誕生は、もうすぐだ。「総合優勝に向け、本当に大きな勝利だった。でも考えすぎはよくない。次はすぐ中国だから」。沸き立つ報道陣を制する22歳には、もう王者の風格が芽生えていた。【森本隆】
白い歯をこぼしてシャンパンシャワーに臨むハミルトンを、人垣の中で静かに見守る男性がいた。父アンソニーさんだ。人懐こい笑顔を絶やさず、祝福に訪れる関係者に握手で応えた。
息子を伴っての来日は、00年の栃木でのカートレース以来7年ぶり。親子で夢中になってF1への夢を追いかけていたころだ。「親子で夢は見ていたさ。でも保証なんて何もない。ただ必死だったから」。英国で人種差別にも耐えながら、IT事業を成功させた。「僕はいつかF1で走りたい」。そんな息子の一言が心の支えだった。
息子は早ければ、中国GP(7日決勝)で総合優勝を決める。アンソニーさんは「大人になった彼に、もうしてあげられることはない」と笑う。名前は「世界最速の男に」という願いを込め、84年ロサンゼルス五輪男子陸上4冠のカール・ルイスから取った。親子の思いは達成されたかに思えたが、孝行息子の目は今、さらに上を向いている。
ルイス・ハミルトン
◆生まれ 1985年1月7日、英スティーブネージ出身。祖父がカリブ海のグレナダから移住。父アンソニーさんはIT企業を立ち上げて成功した。
◆天才 5歳のとき、父に買い与えられたラジコンの操縦技術が話題になり、テレビにも出演。カートレースでも連戦連勝した。
◆政治力 カートレースの祝勝会で、マクラーレンのデニス代表に育成組織入りを直訴。わずか10歳のときだった。
◆記録 下部組織GP2で06年、総合優勝した。今季からF1に昇格し、黒人初のF1ドライバーに。デビューから9戦連続表彰台のF1記録を樹立した。4勝もフル参戦の新人としては最多。
◇第15戦日本GP決勝成績 (決勝)
(1)ハミルトン(マクラーレン)2時間00分34秒579、(2)コバライネン(ルノー)2時間00分42秒956、(3)ライコネン(フェラーリ)2時間00分44秒057、(4)クルサード(レッドブル)2時間00分54秒876、(5)フィジケラ(ルノー)2時間01分13秒443
[2007年10月01日付 紙面から]
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