<大相撲技量審査場所>◇7日目◇14日◇東京・両国国技館

 西前頭7枚目の嘉風(29=尾車)が、「反則勝ち」した。先に土俵に落ちたが、東前頭5枚目の阿覧(27)にまげをつかまれ、物言いの末に白星が決まった。今場所前、なぜ自分は八百長しないかを熟考。正々堂々と戦うことの面白さを再確認して臨んだ場所で、珍しい勝利を呼び込んだ。

 下から、下からしつこく攻めたが、最後は嘉風が前のめりに土俵に落ちた。軍配は、阿覧。しかし物言いが付き、協議の末に勝敗が入れ替わった。相手の右手が、嘉風のまげをつかんでいた。初めての反則勝ち。「引っ張られたかなと思った。結果は反則ですけど、内容は勝っていたんで…」。前に出る相撲に、攻めたプライドをのぞかせた。

 八百長問題で揺れた、この3カ月。自分は入門以来、真剣勝負を貫いてきた自負があった。そんな時、星の売り買いが話題になったこともあった。自宅で愛夫人が、ふとした時につぶやいた。「私だったら、八百長をしてしまうかも。負けてあげたら、80万円ももらえるんでしょう?」。

 嘉風

 何でオレはガチンコなんだろうと考えた。やっぱり15日間、ドキドキするスリルは、脳内麻薬のようなもの。やっている時は押しつぶされそうになるけど、あのスリルはいい。1勝の重みもあるし、負けた時の反省もある。八百長やっていたら、稽古できない。1回1回、痛いしね。人間としては一人前じゃないけど、絶対貫きたい。

 真剣勝負だからこそ、勝ったらうれしいし、負けたら悔しい。2カ月前から、知人のトレーナーに頼んで、定期的に稽古とは別のトレーニングを始めた。あと10年現役を続けたいからこそ、挑戦した。

 物言いが付くような、際どい勝負は、観客が沸く。身長177センチは、幕内で下から3番目。この日、左足をアイシングして国技館を後にした。小兵でも奮闘し続けられる理由は、安易な保身を考えず、体を張ることに誇りを持ち続けているからだ。【佐々木一郎】