<大相撲秋場所>◇10日目◇20日◇東京・両国国技館

 関脇琴奨菊(27=佐渡ケ嶽)が、大関昇進へ大きく前進した。1敗で並んでいた関脇稀勢の里(25)に何もさせず、寄り切りで完勝。昇進の目安となる12勝へ、残り5日間で3勝に迫った。

 わずか3秒2で仕留めた。琴奨菊が、稀勢の里を寄った。立ち合いから低い姿勢のまま、まわしにこだわらない左四つ。大関候補同士、1敗同士の対決で、自分の相撲を取りきった。好敵手と意識してきたからこそ「勝ち負けじゃない部分が、稀勢の里にはある。いい相撲を取れて良かったです」と振り返った。

 先場所は、勝負どころの終盤で硬くなり、平幕に連敗。今場所は、しびれる一番でも、最良の動きを表現した。「やるべきことをやるだけ。無理なことを考えても、無理なんで…。落合監督から(言葉を)パクったんですけどね」と笑う。課題は精神面と自認し、ためになることは、貪欲に取り入れてきた。

 昇進に失敗した7月の名古屋場所後、NHKのドキュメンタリー番組「アスリートの魂」への出演依頼を受け入れた。今場所の昇進にかかわらず、千秋楽の翌日に放送される。場所前から連日のように稽古場でカメラに追われ、食事の時も、場所への行き来も密着される。これも、精神強化の一環だと考えた。

 「そこが足りない部分だったかもしれないから。テレビカメラが、絶えず1台あるだけで、威圧感がある。どういう結果になろうと、やってみようと思った」。佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)も「本人がつらくなったら、撮影はやめて下さいと言ってある。自分にプレッシャーをかけているんでしょう」と心意気を買った。

 中日に黒星を喫しても、撮影は拒否しなかった。自分を変えたかった。支度部屋で音楽を聴くことも、以前は「日馬富士のまねはしたくない」と話していたが、集中力向上のため、ハウンドドッグの「ff(フォルティシモ)」などを聴くようになった。残り5日。大関の座をつかみ取り、弱い心臓と決別する。【佐々木一郎】