<大相撲春場所>◇9日目◇19日◇大阪府立体育会館

 関脇鶴竜(26=井筒)が、横綱白鵬(27)を寄り切った。師匠の井筒親方(50=元関脇逆鉾)も予想していなかった2場所連続の番狂わせで、大関昇進へ1歩前進した。全勝だった白鵬に土をつけて1敗を守り、大関把瑠都(27)と東前頭16枚目の翔天狼(30)と並び、優勝争いのトップに立った。

 座布団が舞う中、鶴竜が息を切らしながら22本の懸賞を受け取った。53秒5。今場所最長の相撲で、全勝の白鵬を寄り切った。当たって、突いて、いなして、右四つで頭を付けた。我慢の末に、勝ちきった。「うれしいっすね、本当に」。支度部屋ではいつも通り、表情を変えずに言った。

 前日、稀勢の里に完敗。この日の取組前、井筒親方は「残念だが、楽な気持ちになった。ああいう相撲では大関になれない」と言った。白鵬戦についても「多分、勝てない。どれだけ善戦できるか」と話した。ところが予想外の白星後に異変が起きた。実弟の錣山親方(元関脇寺尾)は「不整脈で体調が悪く、コメントできません」と代弁した。

 この日の朝稽古は、今場所初めて非公開にした。報道陣の前に姿を見せなかった。「ちょっと初日の気持ちに戻るためにね」。集中力を高め、勝利につなげた。2場所連続10勝を挙げており、大関昇進へは今場所13勝が目安。白鵬、把瑠都を破り、初優勝すら見えてきた。

 心が安定した。今年の初場所前、出稽古に師匠が同行すると、相撲が崩れた。「いいところを見せようと思って、逆に駄目になってしまう」と迷いを口にしていた。昨年は出稽古先に白鵬が現れると、そっと帰ったことがある。「自分が万全でないのに稽古したら失礼だから」と弱気になったこともあった。

 今場所は、無心に近づいた。「重い1勝では?」との問いに「まだ何も決まってないですから。そういうのを考えないで相撲を取れたのが良かった」と答えた。横綱昇進後の白鵬に連勝した日馬富士、琴奨菊、稀勢の里は大関に昇進した。鶴竜も先場所、白鵬戦の連敗を「20」で止めて連勝した。実力でも記録の上でも大関はもう、手の届く位置にある。【佐々木一郎】