29年ぶり2度目出場の三沢商(青森)が、青森の歴史を変えた。花咲徳栄(埼玉)に敗れ甲子園初勝利は逃したが、春夏通じて県勢公立校初めての本塁打を含む2アーチを放った。0-9の劣勢から、6回に3番冨田日南登内野手(3年)が左越えに2点本塁打。8回には代打の金渕幹永外野手(2年)が左越えにソロアーチをかけた。この日第1試合で鶴岡東(山形)が勝ち東北勢初戦4連勝に続くことはできなかったが、聖地に大きな足跡を残した。

 0-9と敗戦濃厚でも、あきらめていなかった。6回2死二塁。冨田日が内角低めの速球を捉えた。「打った瞬間、入ると思った」。ナイター照明に照らされた打球が左翼スタンドで弾んだ。青森県勢の夏通算30号は、公立校初めての本塁打だった。

 浪岡健吾監督(46)が三沢商の5番・中堅手として初出場した29年前の86年。開幕ゲームで甲西(滋賀)に0-7と敗れた。ホームが遠かった。冨田日は「それは知っていた。1点が欲しかった」と言った。本塁打前に主将の鎌本憲(3年)が二塁打で出塁していた。「やっとキャプテンが出てくれて、このランナーをかえしたかった」。監督、チームのためのフルスイングが甲子園初得点だけでなく、青森の本塁打の歴史も変えた。

 8回2死から2年生の金渕が、大会史上14本目の代打本塁打。「歴史に残ってよかった。今までで一番の当たり。憧れの甲子園で(ダイヤモンドを)1周できて感無量です」と声を弾ませた。浪岡監督は「前回は0点で終わった。点数を取れたことは最低限のプラスだったと思う」と評価した。

 県勢の初戦敗退は09年青森山田以来6年ぶり。91年弘前実以来、24年ぶりの公立校勝利も逃した。それでもつなぐ打線が持ち味の三沢商が、甲子園で2発と意外性を示した。冨田日は「素晴らしい舞台を1、2年生は経験できた。来年も出て、次は1勝してほしい」と初勝利を後輩に託した。

 もう1度甲子園の土を踏むためには八戸学院光星、弘前学院聖愛、青森山田などの「私学の壁」を再び破らなければならない。道のりは決して平たんではない。金渕は「ここで得た経験を生かして、また同じ打席に立ちたい」と誓った。公立校1号&2号の大きな足跡を聖地に残して、三沢商が新たなスタートを切る。【久野朗】