<高校野球福島大会:抽選会>◇23日◇郡山ユラックス熱海

 原発のせいで野球をあきらめた仲間のために-。第93回全国高校野球選手権福島大会(7月13日開幕)の組み合わせ抽選会が23日、郡山市内で行われた。福島第1原発事故の影響で、間借りする他校で授業や練習を行う双葉翔陽、富岡、相馬農が結成した「相双連合」が初参加。主将の遠藤剛司(3年=双葉翔陽)は、転校を余儀なくされ、野球を辞めざるを得なかった、いとこの分も、と意気込んだ。

 被災した東北のトップを切って行われた抽選会。主将の遠藤剛は、同席した富岡の中村公平(3年)から「頼むぞ」と握られた左手で、くじを引いた。1回戦の相手は喜多方。双葉翔陽単独で出場した昨夏の3回戦で、0-1と敗れていた。「当時は翔陽として負けたけど、今年は3校の力を合わせてリベンジします。自信はあります」。遠藤剛は笑顔で言い切った。

 震災直後、大会参加など夢だった。原発から双葉翔陽は約5キロ、富岡は約10キロにあり、ともに立ち入り禁止の警戒区域内。相馬農は約25キロの緊急時避難準備区域にある。双葉翔陽は5人が転校して部員が14人に減った。単独でも出場はできた。だが、同様に部員が激減した相馬農の2人と富岡の1人を放っておけない。「相双地区の力を合わせて原発に立ち向かおう」。服部芳裕監督(52)の呼び掛けに同調の輪が広がった。

 初練習は震災から約2カ月半後の5月29日。放射線量が比較的低い小野町の小野高グラウンドを借りた。部員は離散先で避難生活を送っており、合同練習は週1回だけ。大会まで計7日間しかない。服部監督はしゃがれ声で叫んだ。「ただ出るために結成したんじゃない。勝つためだろ。遠慮なんかすんな。言いたいことを言えるようにならなきゃ、夏が来ちまうぞ!」。

 遠藤剛は「今まで対戦してきた相手。不思議な感じっす」とポツリ。富岡の中村、相馬農の八巻健太(2年)は練習内容の違いや声出しのタイミングの違いに苦笑い。ともにポジションも変更となり、戸惑いもあったが幸せだった。「また野球ができたんだから」。

 野球が出来なくなった、あいつのために-。遠藤剛の決意は固い。震災前、双葉翔陽の主将は、遠藤のいとこの遠藤真弘(3年)だった。原発事故で東京の若葉総合への転校を余儀なくされた。だが、転校先には野球部がない。最後の夏。甲子園を目指すことすら、できない。「同い年で兄弟同然の真弘が、原発のせいで野球を諦めるなんて…」。涙がこぼれた。

 実家は徒歩15分の距離にあり、川内中時代もチームメート。高校に持ち越した夢があった。震災前の打順は、遠藤剛が5番で遠藤真が3番。今まで公式戦で1度もなかった「真弘が出て、俺がかえす」。もう、実現しない。「俺の分まで頑張れよ」。そう届く携帯メールに心を締めつけられるたび、思う。「真弘の無念を、勝利で晴らしたい」。【木下淳】