<全国高校野球選手権:福井商4-3帯広大谷>◇10日◇1回戦

 来年も戻ってくる!

 帯広大谷(北北海道)の2年生左腕、佐藤和真が先発し、7回まで5安打1失点に抑える好投をみせた。8回裏に3失点で逆転を許すも、相手エースより20キロ以上遅い直球に計測不能の超スローカーブなどを織り交ぜ、中盤まで凡打の山を築いた。22回の夏の甲子園出場を誇る伝統校と堂々渡り合い、新チームでの甲子園へ手応えをつかんだ。

 2年生左腕には甲子園で確認したいことがあった。3回裏、先頭打者をスローカーブで二塁ゴロにしとめた時、掲示板が目に入った。本来掲示されるはずの球速表示はなかった。「(北大会開催の)旭川スタルヒンでも掲示されない時があって、楽しみにしていたんですけど…。少し残念でした」。佐藤和は大舞台にも余裕があった。

 最速145キロを掲示させる相手エースを横目に、自分の世界に入った。「相手の球速は分かっていましたが自分は無理。権藤(智希=3年)さんのミットに向かって投げることだけを考えました」。こん身の力を込めた最速119キロの直球、ほぼ同じ球速のスライダー、そして遅すぎるカーブを織り交ぜ、タイミングを外し続けた。

 北大会決勝では先発の田村純平投手(3年)が3失点した後に登板。粘り強い投球で5回1/3を無失点にしのぎ、味方の逆転勝利を呼び込んだ。地区通算22試合1失点の勝負強さと調子の良さを買って大舞台のマウンドに送り出した網野元監督(41)に「120%の投球。変えるタイミングが難しかった」と言わしめる好投だった。

 父忍さん(45)とキャッチボールを始めた幼稚園のころは“両投げ両打ち”だった。小学1年で「少しだけ遠くに投げられた」(忍さん)という理由で左投げに固定。3年後に打率のいい左打ちを選んだ。すべて弟子屈高のエースだった父のアドバイスだった。小、中学とも全道出場。甲子園は4日前に45歳になった父への誕生プレゼントになった。「素晴らしい投球でした」と、三塁側スタンドで父は目を細めた。

 8回裏、本人も予想外の「スタミナ切れ」がやってきた。「暑さでボーッとして、スクイズは頭にありませんでした」。3安打とスクイズ、野選が重なり、3失点でマウンドを田村に譲った。「3年生ともっと野球がやりたかった。自信はつきましたが、負けたのは自分のせい。十勝に戻っても同じ投球をして、来年はここで勝ちます」。胸に宿した自信と悔しさを、次に生かす。【中島洋尚】