ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGM(52)が6月下旬の欧州初公式戦の期間中、ロンドン時間の深夜1時過ぎに他球団の何人ものGMにスマートフォンでメールを送り「今、ロンドンにいるんじゃないのか?」とあきれられたという。メールの目的はもちろん、トレード模索のため。今年も7月31日にトレード期限がやってくる。

トレードのルールは今季から変更され、この7月のトレード期限は、ポストシーズン進出を目指す球団には失敗の許されない重要なものになった。昨季までは、7月31日は厳密にいえばウエーバーを通さずにトレードができる「期限」で、この期限を過ぎても選手をウエーバーにかけ、クリアすればその選手をトレードすることができた。8月31日にポストシーズンに出場できる選手をトレードするためのもう1つの期限があった。7月にトレードがうまくいかなければ、8月にやり直しが可能だったのだ。

それが今季から、7月31日のトレード期限が文字通り「トレードができる期限」となり、8月1日からワールドシリーズ終了までは、メジャー契約を結んでいる選手のトレードは一切できなくなった。8月1日以降に選手をウエーバーにかけることは可能で、他球団はクレームを入れればその選手を獲得することができるが、通常のトレードのような交渉の余地はなく、その選手の年俸を全額負担することになる。8月に選手をウエーバーにかけるのは、以前なら他球団がどんな選手を欲しがっているかを探る観測気球目的の場合も多かったため、新ルールではウエーバーにかかる選手も減りそうだ。

このルール変更は、7月のトレードを活性化させ、より多くのチームをポストシーズン進出争いに参戦させることが目的だ。だがこの7月はここまで、トレード市場の動きが昨季よりやや鈍い。ルールが変わったにもかかわらず市場の動きが遅いのは、ポストシーズン進出争いの形勢が、まだはっきりしないせいもある。特にナ・リーグはワイルドカードの上位9球団が5・5ゲーム差(7月16日時点)の中にいる大混戦。多くの球団が戦力を「買い」に出るか「売り」に回るか迷う状況にあり、ヤンキースのキャッシュマンGMのように早い段階からアクティブに情報収集をしていても、トレード相手がなかなか見つからないというのが現状なのだろう。

しかし、いったん「買い」と決めればもう後がないため、今季は期限ぎりぎりの31日に駆け込みトレードが恐ろしいほど殺到するかもしれない。米東部時間31日午後4時(日本時間1日午前5時)のトレード期限に注目だ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)