最近のメジャーは、常に何らかの流行が生まれては消え、目まぐるしく変化している。数年前に監督未経験の若手をいきなり監督に登用する人事が大流行したが、もうすっかり下火だ。今季終了後、8人もの監督が解任または退任したが、そのうちミッキー・キャロウェー(44=18年からメッツ監督)やゲーブ・キャプラー(44=18年からフィリーズ監督)はまさに流行に乗って採用された未経験若手組だ。代わって今オフは、実績あるベテラン監督を求める球団が増えている。

そもそも未経験若手監督の流行のきっかけは何だったかと振り返ってみると、若手の方がデータ野球を理解できるだろうというのもあったが、レイズのケビン・キャッシュ監督(41)の成功も影響していたように思う。まったくの未経験だった同監督が15年から37歳で指揮を執り始め、最初の2年は低迷したものの、ヤンキースやレッドソックスという強豪がひしめくア・リーグ東地区で健闘し、今季はついにチームを6年ぶりのポストシーズンに導いた。監督就任前はインディアンスのテリー・フランコナ監督の下でベンチ・コーチを務めており、選手の見立てにも定評があった。

現役時代は捕手で、世界一に輝いた09年のヤンキースに所属していたので筆者も取材をしていたはずだが、10試合しか出場しなかったこともあり実はまったく覚えていない。だがレイズ(当時はデビルレイズ)に所属していた05年のことはよく覚えている。ちょうど野茂英雄氏がレイズで日米通算200勝を達成した年だ。6月15日の本拠地でのブルワーズ戦で野茂氏が7回を4安打2失点で節目の勝利を挙げたのだが、このときの女房役がマイナーから昇格したばかりのキャッシュ氏だった。この年の野茂氏はなかなか苦労しており、5月は6試合の登板で1勝のみ。200勝に近づきながら足踏みした登板も多かったが、キャッシュ氏は昇格当日いきなりマスクをかぶり記録達成を一緒に果たしたのだから、やはり何か持っている人なのだと思う。この野茂氏の200勝試合に筆者は取材に行っていたので、押し入れの奥にある当時の取材ノートを引っ張り出してみた。あった、あった。野茂氏本人を始め選手、監督らから聞いたコメントが書いてあった。キャッシュ氏のコメントは最後にあった。それはつまり何を意味するかというと、チームの中で一番後からシャワーを浴び最後に出てきたということだ。目立たず奥ゆかしい人柄なのだ。

第2のキャッシュ監督を探せとばかりに、とにかく未経験若手監督を獲得しようと、多くの球団が一斉にそれを求めた。今は、未経験若手監督が新監督候補になることが皆無ではないが、球団上層部がその人柄や資質を熟知している人物に絞られているように思う。一斉に流行に乗ってうまくいかなければ即切り替えるというのは、いかにも米国らしい。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)