エンゼルスの新監督となったジョー・マドン監督(65)が、二刀流の大谷をどう起用していくか注目されている。アイデアマンであり新しいものを臆さず先取りしていく同監督が、最初に二刀流選手の起用を考えたのは、実は30年も前のことだったそうだ。

同監督がエンゼルス傘下のマイナーでコーチを務めていた時期だ。エンゼルスの春季キャンプでは当時、投手、野手関係なく全員に60ヤード(約55メートル)ダッシュをやらせていたそうだが、その中で高卒でドラフト2巡目指名で入団したばかりのデショーン・ワーレンという左腕投手が誰よりも足が速かった。マドン監督は、この俊足を生かさないのはもったいないと、ワーレンをどうにか投手兼DH、たまに外野の守備にも就かせるという二刀、三刀流選手に育てられないかと考えたという。

実際に、当時の球団GMだったダン・オブライエン氏に、投手をやりながら打撃練習もさせられるよう育成スケジュールを組めないかと提案もした。しかしメジャーも今でこそ二刀流選手の育成に積極的な球団が出てきたが、当時はそんな考えはまったく受け入れられず、提案は却下。90年代初頭にすでに頭に浮かんでいた二刀流構想は、日の目を見ないまま終わっていた。

そのワーレンはエンゼルス傘下マイナーで投手として5年間プレーしたが、鳴かず飛ばずで96年で退団し、98、99年は米独立リーグでプレーしている。マイナー時代にわずかながら打席に立ったが、5年間計52打席で無安打に終わった。しかし独立リーグでは98年に打率3割3分3厘を打ち、投手としても4勝5敗の成績を残しており、この年がワーレンにとって二刀流として唯一輝いたシーズンだったようだ。

マドン監督がワーレンのことを回想して語ったのはカブス監督だった2017年12月のことだ。ちょうど大谷がポスティングシステムによりメジャーに移籍すると明らかになり、カブスも獲得に動いていた。同監督も当然、球団の大谷勧誘に協力していたのだが、地元シカゴのラジオのインタビューでは「二刀流をするならDHのあるア・リーグがいい」と率直な意見を述べていた。「投手として投げた直後に野手としてフィールドに立たせるのは、容易ではない。肩肘のリカバリータイムが必要だということも十分考慮しなければならない。個人差もある。投球回数を考えたり、念頭に置くべきことがいろいろある」と話していた。実際に二刀流にかかわる前から、どう運用するべきか明確な考えを持っていたということだ。来季はマドン監督にとって、30年越しの二刀流構想の実現となる。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)