2023年のMLBレギュラーシーズンも残り1週となりました。エンゼルス大谷翔平投手(29)は残念ながらケガと右肘手術でシーズン終了となりましたが、メッツ千賀滉大投手(30)がメジャー1年目からサイ・ヤング賞級でシーズンを完走します。
ここまで28試合に先発して12勝7敗、防御率2・96はナ・リーグ2位、両リーグ合わせても4位の好成績。被打率2割5厘はメジャー5位、奪三振率10・82も同6位と成績上位にいます。ほぼシーズン折り返しの6月23日以降は、メジャー3位の防御率2・50をマーク。その間、15先発で1度も自責点4以上がなく、これは殿堂入りしたトム・シーバーらに続いて球団史上7人目の記録となりました。最新の投手パワーランキングではメジャー3位、ナ・リーグでは左腕ブレーク・スネル(パドレス)に次ぐ2位に浮上しました。
また、特筆すべきは奪三振です。「ドクターK」ことドワイト・グッデンの276奪三振に次ぐ、球団新人2位となる194奪三振をマーク。武器の「お化けフォーク」での空振り率は、驚異の59・7%。さらに、7月以降の防御率2・37はメジャー全体で2位とさらに調子を上げました。今や、8月1日のトレード期限に手放した2枚看板のジャスティン・バーランダー(アストロズ)、マックス・シャーザー(レンジャーズ)に代わって、エースの風格も出てきました。
後半戦好調の要因として、バック・ショウォルター監督(67)の起用法が挙げられます。日本のプロ野球も熟知する名将はルーキー千賀に対し、「決して無理させないように」と基本的に中5日、もしくは中6日のローテーションで回しました。結果は、メジャーで一般的な中4日はわずか3試合で防御率4・61。中5日が最も多く、17試合で防御率3・04。中6日だと8試合で防御率2・34とさらに良化します。登板間隔を空けるほど成績が良くなり、夏場以降の好成績につながりました。
前半戦終了時点でナ・リーグ新人王争いは、ダイヤモンドバックスのコービン・キャロル外野手(23)らに次いで5位の評価でした。キャロルは前半戦86試合で打率2割8分6厘、18本塁打、48打点、26盗塁。オールスターでは「8番左翼」で先発出場しました。20日には、ルーキー史上初の「25本塁打&50盗塁」を達成。専門サイトの予想オッズでは1・01倍と、現在も新人王の大本命に挙がります。
それでも、千賀に新人王の可能性はあるでしょうか? 望みは、シーズン後半の成績です。全米野球記者協会(BBWAA)から選任された30人のみの記者投票だけに、前半戦より後半戦に活躍した選手の方が印象が良くなります。つまり、6月23日以降の好成績は大きなアドバンテージです。
次に、強烈なインパクトです。千賀の決め球フォークは地元ニューヨークでも「ゴーストフォーク」として大人気で、全米でも知名度が浸透してきました。1980年代の「ドクターK」グッデンをほうふつさせるインパクトを与えています。新人ながらサイ・ヤング賞の候補に挙がるのも好印象です。
また、大都市ニューヨークの球団であることも追い風でしょう。地方都市の球団に比べて注目度が高く、多くの記者票が集まる傾向にあります。特にニューヨークはメディアやファンの注目度も高く、記者投票も伸びる可能性があります。
日米100勝に王手をかけ、規定投球回162まで残り2アウト、200奪三振にも残り6個。トリプル大台クリアを懸けて、27日(日本時間28日)のマーリンズ戦で今季最終登板に臨みます。最後はショウォルター監督の気配りか、前回登板から中6日。心身とも最高の状態で本拠地のマウンドに上がり、圧倒的なパフォーマンスで有終の美を飾ってほしいです。【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)