英雄のフェスが幕を開けた。マリナーズ・イチロー外野手(45)が巨人とのプレシーズンゲームに「9番右翼手」で出場。正午開始のデーゲームに4万6315人の満員御礼となり、プレーごとに大歓声が巻き起こった。打棒は3打数無安打で米国でのオープン戦から21打席連続無安打と不安は残す。それでも将来の殿堂入りが確実な希代のヒーローは、7年ぶりの日本でのプレーに「東京のファンは最高」と感激に浸った。

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ファンのすべての視線が注がれた。名前を絶叫し、携帯電話で撮影し、あるいは瞬間を目に焼きつけようと凝視する。7年ぶりに日本で白球を追うイチローの勇姿が戻ってきた。

1回裏、定位置の右翼手に就く。主役の登場に球場が沸く。「東京のファンはすごい品がある」と上質な空気を感じた。東京ドームで05年の実数発表以降で、オープン戦過去最高は上原の復帰登板となった昨年3月20日の巨人-日本ハム戦の4万6297人。この日は4万6315人で更新した。「ドームでやっているから時間的な感覚がピンと来ないけど(練習開始の)10時にあれだけ入って12時のゲームでとりあえず満員。びっくりしましたよね」。人気球団ヤンキースに身を置いたこともあるが、未経験の風景が広がった。

だからこそ、代名詞のヒットを披露したかった。2回無死一、二塁の初打席。制球が不安定な巨人今村にボール先行されると勝負を求める空気が充満した。フルカウントから137キロ直球が甘く吸い込まれたが、捉えきれずに中飛。2打席目も直球を二ゴロ。3打席目で右翼線を襲う、芯を食った鋭いファウルに場内がどよめく。だが最後も打ち損じの遊ゴロで、6回裏の守備から交代を告げられると失望感が広がった。

米国でのオープン戦から21打席連続無安打。巨人は全13球オール直球で外角主体の配球だった。それでもイチローらしい感想を残した。開幕目前での日本人投手との対戦に「球、遅いでしょ。ダッグアウトから見てても明らかに違う。球が速い投手じゃないと思うけど、びっくりしましたね。でも途中から丁寧に一生懸命に投げてたね、先発の子」と20歳下の今村を素直に評した。

イチロー・オンステージへの期待を裏切るつもりはない。試合開始5分前でもエキサイトシートに近寄り、気さくにサインに応じた。1回、坂本勇の大飛球に対し、疾走し、軽くフェンスと激突したが軽快にさばいた。だが渇望は打撃にある。「今日しか来られない人がたくさんいたと思うし、結果出したかったね。でもいい雰囲気。感激しました」。18日の巨人戦が開幕前最後の実戦となる。「東京のファンは最高」。箱の空気を無形の力に変える。【広重竜太郎】