ポスティングシステムを申請し、メジャー移籍を目指していた巨人菅野智之投手(31)の巨人残留が決まった。日本時間1月8日午前7時の交渉期限までに、メジャー球団と契約合意に至らなかった。

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巨人残留が決まった菅野の交渉の背景に、コロナ禍の影響があったことは言うまでもない。昨季のメジャー公式戦は無観客での60試合に短縮。大幅な収益減で緊縮財政を強いられる各球団が、譲渡金を含む高額と見込まれる投資に二の足を踏んだため、交渉が難航したことは想像に難くない。メッツ、ブルージェイズ、ジャイアンツ、レッドソックスなどが撤退した後、交渉期限目前になってパドレスが攻勢をかけたのも、各球団がにらみ合いを続けてきた裏返しだろう。

ただ、米国の各メディアが金銭面での不足を報じる一方、菅野本人は決して年俸に固執していたわけではなかった。菅野にとって、メジャーは学生時代からの夢であり、目標であり続けてきた。日本ハムからのドラフト指名を辞退し、1年浪人してまで巨人入りしたように、中途半端な気持ちでポスティング申請するような性格でもない。ポストシーズンを狙える力があり、そのために必要な戦力として「誠意」を示されれば、たとえ市場評価額を下回ったとしても、菅野は納得しただろう。そういう選手であることが正しく周知されていれば、他にも手を挙げる球団はあったかもしれない。

今回の交渉過程では、米メディアを通して巨人が4年契約ながら毎年オプトアウト(契約見直し)できるオファーを出したとの情報が、一斉に流れた。2000年オフ、イチローが初めてポスティングで移籍して以来、過去に日本球団の条件が伝え漏れたこともなければ、メジャーと比較されたケースは記憶にない。コロナ禍の影響で対面交渉の機会が限定されるため、情報だけでなく、双方の真意も伝わりにくく、関係者がメディアやSNSを通して、駆け引きの一端として、意図的に「投石」した可能性も否定できない。17年オフに大谷(エンゼルス)が7球団と面接したように、もし直接交渉が実現していれば、おそらくスムーズに進行したに違いない。

現時点で、米国内は依然としてすさまじい勢いでコロナの感染拡大が続いており、キャンプや公式戦の実施も不透明な状況。金銭などの条件以上に、プレーする環境の不安が大きいだけに、菅野が悩むのも当然だったといえる。【MLB担当=四竈衛】