3月のWBCで初優勝したベネズエラが、大地震に見舞われ、再び大リーグで注目されている。準々決勝では過去最多の8人のメジャーリーガーを擁した前回王者の日本に完勝。その後も緻密(ちみつ)さと力強さを兼ね備えるスタイルで、イタリア、大本命とみられていた米国を破った。6月にはマグニチュード7を超える地震で5000人以上の死者が出た。祝賀ムードから国の状況が一変する状況下でも、同国出身のメジャーリーガーはたくましく、世界中からの支援を呼びかけるなど存在感を示す。現状を探った。【斎藤直樹】
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WBCで初めて世界の頂点に立った3月17日、ベネズエラ国内は歓喜の渦に包まれた。マドゥロ大統領が拘束されている米国を決勝で破って世界一になったのだから、留飲を下げるのも当然だろう。国民の休日が設定され、1カ月が経過しても野球熱は冷めず、ロドリゲス暫定大統領は次回WBCの開催地にも立候補したという。
全てが順調に思えたが、6月24日の大地震で状況が一変した。WBCでも主力として活躍したウィルソン・コントレラス捕手は、同26日のヤンキース戦で四球を選んだ際、内角速球を投じたウォーレン投手をにらみつけた。適時打と本塁打を打った後とはいえ、死球でもない投球だった。両軍が乱闘寸前の緊張に包まれた。
異変が続いた。同29日のナショナルズ戦では見逃し三振に異議を唱えて退場。同30日の同戦では見逃し三振した際、相手投手から「boy」と侮辱されたとして向かっていき、乱闘の発端となった。7試合(後に5試合に軽減)の出場停止処分を受けた。
冷静さを取り戻した7月4日になって、コントレラスは悔いた。「先週起きたすべての出来事についての謝罪する。本当に厳しい1週間だった。私にとって感情的な1週間だった」。故郷の地震発生で、いつの間にか、心がむしばまれていたと気がついた。
ドジャースのエリエセル・アルフォンソ捕手は、7月5日のパドレス戦でメジャーリーグデビューした。地震から12日後。くしくも16歳の妹エリアナさんと継母パトリシアの遺体が発見された日と重なった。
帽子のツバに2人の頭文字「EyP」(yはスペイン語でandの意)と書き込み、側面にはベネズエラを表す「VZ」の刺しゅうを入れて出場に「起きたことは、残念ながら私の手の及ばないことであり、人生の一部です。私は妹と継母に敬意を表し、困難な瞬間に自分のベストを尽くすために、あそこへ出ていきました」と語った。
同僚のロハスは、元メジャーリーガーでアルフォンソの父とも知り合いだった。愛称マタタンが娘と妻を亡くしたことに「FUERZA MATATAN」(頑張れマタタン)と帽子に書いて、哀悼の意を表した。「本当に厳しい。この10日間、私はショック状態にあった」。身近な人におきた悲劇を受け止めきれなかった。
WBCとワールドシリーズ(WS)の両方で頂点に立ったメジャーリーガーは、過去に2人しかいない。WSに出場する可能性が最も高い選手は、日本戦で先制本塁打を放ったブレーブスのロナルド・アクーニャ外野手(28)だ。23年には40本塁打&70盗塁という、史上初の「40-70」を達成したスーパースター。WBCの決勝前に「私はアトランタ・ブレーブスを愛している。でも、ブレーブスでプレーする前に、私はベネズエラで生まれた」と話したほど、地元愛が強い。WS優勝との2冠で、故郷を勇気づける。
◆同一年にWBCとワールドシリーズで優勝した選手 17年に米国代表とアストロズでプレーしたグレガーソン投手とブレグマン内野手の2人がいるが、両方の舞台で活躍するのは難しい。グレガーソンはWBCで守護神を務め、4試合で3セーブをマーク。しかし、シーズン開幕以降は不調に苦しみ、ワールドシリーズ登板は2試合のみだった。ブレグマンはWBCでは主砲アレナドの控え野手で出場2試合にとどまったが、ワールドシリーズでは全7試合に出場。2本塁打、5打点の活躍で球団初のワールドシリーズ制覇に貢献した。
○…WBC優勝を果たした代表チームは、大会中から連絡を取り合うために使っていたチャットアプリのアカウントをそのまま継続し、今は震災から立ち直るための励まし合いに使っているという。オマー・ロペス代表監督(アストロズ・ベンチコーチ)は7月初旬、米専門テレビ局MLBネットワークのインタビューでこう語っていた。
「代表チームの結束は本当に素晴らしい。私たちは毎日、密に連絡を取り合い、互いに助け合い、特にメンタル面で支え合っている。23年の前回のWBCから、野球を通じて本当に国全体が結束を強めてきた。今回で優勝し、天国にいるような喜びを味わい、地震で奈落の底に突き落とされた。この状況で、球場に行くのもつらいという選手もいる」
だが我々は野球をする。それがベネズエラを元気にするのだと励まし合っていると、同監督は明かしていた。【水次祥子】
○…オリックスの守護神アンドレス・マチャド投手(33)も母国の震災に心を痛める。3月のWBCでは投手陣最年長ながら7試合中の6試合にリリーフ登板し世界一に貢献。7月9日に東京都内で行われたベネズエラ大使館主催の「ナショナルデー」では、日本からの支援への感謝を述べた。京セラドーム大阪では同郷のエスピノーザとともにファンへの義援金募金を呼びかけたばかり。「(ベネズエラ人の強さは)一言で言うと団結。家を失った人、家族を失った人、皆が大変な状況だけど、いつか必ずここから抜け出せる団結の力がある。国が困難な状況に直面していますが、何らかの形でパレードができればいいなと思ってます」。母国での11月の世界一パレードの開催は不透明だが、野球の力が復興の後押しになることを期待した。



