<ヤンキース2-0レッドソックス>◇7日(日本時間8日)◇ヤンキースタジアム

 【ニューヨーク=大塚仁】レッドソックス田沢純一投手(23)が劇的なメジャー初登板を果たした。この日3Aポータケットから昇格し、いきなりヤンキース戦の延長14回からマウンドに上がった。最初の打者松井秀喜外野手(35)を中直に仕留めるなど力投したが、2イニング目の15回にロドリゲスに左中間へのサヨナラ2ランを浴びて初黒星を喫した。アマ球界からメジャーに飛び込んだ田沢のプロ人生が、苦い思い出とともにドラマチックに幕を開けた。

 初めて上がったメジャーのマウンドで、田沢はこれから挑む山の高さを思い知らされた。0-0の延長15回2死一塁。9人目の打者ロドリゲスへのこの日の35球目は、低めへの変化球がわずかに高く浮いただけだった。だがメジャー最高年俸30億4000万円の強打者は逃さない。打球はサヨナラ2ランとなって左中間フェンスの向こうへ沈んだ。「若干ちょっと高かったのかな…」。我に返った田沢が三塁ベンチへと歩き出すと、歓喜の生還を果たすロドリゲスとぶつかりそうになった。背番号63にとっては苦い思い出となった。

 ブルペン待機とはいいながら優先順位は一番下。この日昇格したばかりで、マイナーでは先発しかしていないだけに「できれば今日は投げない方が望ましい」とフランコナ監督も試合前に話していた。だが両軍無得点の息詰まる投手戦が田沢を舞台の中心へと引き寄せていく。延長14回、ブルペンに残っていた最後の8番手としてマウンドへ。時計は日付の変わった午前0時11分を指していた。

 「思いのほか早く(メジャーに)上がれた。不安もあるが、どれだけ通用するのか楽しみ」と話していた田沢の迎えた相手は、いきなり松井だった。投げ込んだのはいずれも速球。捕手バリテックが外角に構えながら内角に吸い寄せられた3球目を、松井にとらえられながら中直に仕留めた。「胸を借りるつもりで投げたんですけど、いい当たりをされて、あらためてすごい打者だなと思いました」。謙虚に話したが、投球に逃げの姿勢はなかった。この回は2安打を許しながら無失点。15回もデーモン、テシェイラを退けて2死を取ったが、4番打者に力を見せつけられた。

 昇格を電話で知らされたのは約24時間前の深夜1時ごろ。「えっ、本当ですか、という感じだった」と言う。午前6時に起床してポータケットからニューヨークへと急行し、チームに合流した。「すごいいい経験だったとは思うんですが、もう少し頑張りたかった」。すべてが新鮮だったが、幕切れだけが苦かった。

 キャンプから面倒を見てきた斎藤は「すごく難しい場面。素晴らしかった。野球の神様がいるなら何でこんな試練をルーキーに与えるのかと思うけど、これもまた彼の野球人生。きっとここから立派な野球人生を歩むんだろうと思います」と期待を寄せた。サヨナラ弾を浴びせたロドリゲスも「彼は1球だけミスをしたね」と賛辞を込めた。田沢の投げた最後の1球は、記録にも記憶にも残るメジャー人生の第1歩となった。