感謝のプロ初勝利を挙げた。西武ドラフト1位、多和田真三郎投手(23)が6度目の先発で5回を6安打5失点。同点で降板した直後に打線が勝ち越し、白星を手にした。ルーキーの粘投を通算1500安打を決めた栗山巧外野手(32)ら野手陣が強力援護。チームは連敗を5で止め、交流戦を勝率5割に乗せる勝利で締めくくった。

 感謝しかなかった。敵地での初のヒーローインタビュー。多和田はスタンドからの歓声に応えながらも、心の底からは笑えなかった。「今日の投球で勝てるとは思わなかった。うれしいことはうれしいですが…。野手の方々への感謝しかないです」。偽らざる思いが口を突いた。

 日の当たる道を歩んではこなかった。沖縄・中部商3年の秋。プロ志望届を提出したが声はかからなかった。進路に選んだのは岩手の富士大。「正直、寒いところだな、という気持ちもありましたけど、ドラフトが終わるまで、ずっと待っていてくれたんです。あの4年間があったから、今があると思ってます」。

 入学時の体力は同期の中でも劣っていた。それでも当時、同大の投手コーチを務めていた吉田監督は「球は間違いなく一級品。とにかく走らせました」。右膝から下がマウンドにつくまで沈み込む独特のフォーム。球威を支える下半身は、雪国での走り込みで鍛え上げられた。

 アクシデントは覚悟につながった。大学4年の春に右肩痛を発症した。最後のリーグ戦を投げられない歯がゆさを「プロで戦うため」と抑え込み、黙々と走った。自身2度目のドラフト会議は「今までで一番緊張しました」。念願のプロへの道は開かれ、与えられた背番号は18。「ちゃんと期待に応えないといけない。お世話になった方々に恩返しをしないといけない」と決意を固めた瞬間だった。

 5月14日の初登板から1カ月以上、勝てない日々が続いた。この日、山田に食らった1発も「三振を取りたいという欲が出てしまった」。課題の立ち上がりを含め、勝ち続けるためには、まだまだ足りないものも多い。「立場的にチャンスはあまりない。次は自分の力でチームが勝てるように頑張りたい」。ほろ苦いウイニングボール。恩返しへの第1歩は踏み出した。2つめの白星は、満面の笑みでつかみ取る。【佐竹実】